今回のエントリーは、大腸菌を用いたタンパク質発現プロトコールの③の続きです(①〜③はこちら)。

8. 7で残った上清からタグを利用して発現させたタンパク質の濃縮を行う。以下はHisタグを使用した場合の例
a. イミダゾール/HCl(pH 7.9)を最終濃度1mMになるように、7の上清に加える。
b. aにLysis Bufferで平衡化したNi-agarose(50%スラリー)を撹拌してから50uL加える。
c. コールドルーム(4℃)で1時間ローテーションしたら、2,000 rpm, 4℃で1分遠心。
d. 上清を30uLとり、同量の2X SDS sample bufferを加えて、ボルテックスしたら、100℃で3分加熱し、-20℃で保存。
e. 上清を捨て、新しいLysis bufferを1mL加え、軽くピペッティング。その後、2,000 rpm, 4℃で1分遠心。これをもう一度繰り返す。
f. 上清を捨て、50uLの2X SDS sample bufferを加えて、ボルテックスしたら、100℃で3分加熱。

IPTG誘導前のサンプル(プロトコール③のステップ5)、誘導後のサンプル(6)、可溶画分(7の上清)、不溶画分(7の沈殿物)、濃縮サンプル(8)のそれぞれをSDS-PAGEにかけて、クマシー染色することで、以下のことを確認する。(初めて実験する際には、空ベクターで形質転換した大腸菌に由来するサンプルも同時にSDS-PAGEにかけ、本ベクターで形質転換した大腸菌由来サンプルと比較する。→IPTGで誘導がかかるタンパク質が空ベクターをもつ大腸菌には現れないことを確認)

・IPTGよる発現誘導がきちんとかかっているか。
・可溶画分と不溶画分のどちらに目的のタンパク質が多く存在しているか。

Lysis Bufferの種類によって、目的のタンパク質の画分が変わることがある。もし、目的のタンパク質を可溶画分で取りたければ、バッファーのpH(バッファーのpHがタンパク質の等電点になっていると沈殿する)や界面活性剤の種類、濃度等を変えてみる。

以上の実験により、目的のタンパク質の発現が確認できたら、発現誘導条件の最適化を行なう。
最適化は以下の項目を調整することで行うが、SDS-PAGEの結果から、濃縮しなくてもタンパクの発現を評価できる場合は、ステップ5,6ないし7までのサンプルでSDS-PAGEを行い、8は省略してもよい。

発現誘導条件の検討
タンパク質の発現量や可溶性は発現誘導時の条件によって大きく変化する。発現させたタンパク質の使用目的に合わせて誘導条件の最適化をおこなう。

・IPTG誘導時のO.D.600 ・・・0.4を試してから、0.2~0.6の間で最適化
・培養温度・・・37 ℃を試してから、18~30 ℃の間で最適化
・IPTG誘導後の培養時間・・・2 時間を試してから、1.5~4 時間で最適化
・IPTG濃度 0.4 mMを試してから、0.1~0.6 mMで最適化


発現タンパク質の定量
10 mLスケールの発現で得られたタンパク質をSDS-PAGEにより定量する。これによって、必要な量のタンパク質を得るためには何リットルで培養すればよいかを決めることができる。
サンプルと共に、濃度が既知のBSA(Bovine Serum Albumin)を、段階的に量を変えてアプライし、泳動後にクマシーブリリアントブルーで染色する。そして、サンプルのバンドの濃さとBSAのバンドの濃さを比較し、タンパク質の発現量を推定する。より正確に定量したい場合は、染色したゲルをスキャンし、Image Jなどの画像解析ソフトを利用して定量する。

<可溶性タンパク質の収量を増やすには>
標準的なプロトコール(IPTG添加後、37 ℃で2〜3 時間培養することでタンパク質を発現させる)で、十分な量の可溶性タンパク質(可溶画分で取れるタンパク質)を得ることができない場合は、以下の条件検討を試みるとよいでしょう。この方法は発現システムで有名な某M社の営業さんから直接教えていただいたもので、場合によってはかなりの効果を発揮します。

1. IPTG添加後、37℃よりも低い温度(18~30 ℃)で大腸菌を培養することでタンパク質を発現させる。
(温度を下げた分、培養時間は適宜延長する)
1でダメなら、下記の2を試す。
2. 培地に予めグルコースを1 %になるように添加しておき、IPTG添加後、18~30 ℃で培養する。
グルコースの添加により、IPTG添加前に目的のタンパク質がじわじわと発現(リーク)するのを防ぐ。
2でもダメなら、3を試す。

3. 2の条件下で培養した後、IPTGと同時にエタノールを3-4 %(最終濃度)になるように加えて、18~30 ℃で培養する。エタノールの添加により発現したヒートショックプロテインが封入体形成を抑えることがある。



スケールアップ

上述した方法等により、小スケールで発現させたタンパク質の量を見積り、そのデータから必要な量のタンパク質を得るにはどれくらい培養をスケールアップすればよいのか計算する。
そして、最適化した条件の元で発現を行い、精製するが、精製についてはキットのプロトコールに従って実施する。



大腸菌を用いたタンパク質の発現①
大腸菌を用いたタンパク質の発現②
大腸菌を用いたタンパク質の発現③