カテゴリ: プロトコール

レーザーマイクロダイセクションのプロトコール、その2です。
薄切切片の調整が終わったら、ダイセクションに移ります。ここではLeica MicrosystemsのAS LMDを使用しています。


事前に、LMDの顕微鏡周辺を70 %エタノールやRNase-offを使ってきれいにしておく。
特に、ステージとPCRチューブラックは入念に。

ダイセクションの際に用意するもの

0.5 mL PCRチューブ (Eppendorf)
QIAGEN Buffer RLT (使う前に2-メルカプトエタノールを1 %になるように入れておくこと)
マイクロピペット
フィルター付きチップ(RNase-free)
RNase-OFF
DEPC水
ペーパータオル
薄切サンプル

Laser Microdissectionの手順

① LMDシステムの立ち上げ(明視野の場合)

1. レーザーのスイッチon(鍵を12時の位置まで回す)

2. 顕微鏡コントロールボックスのスイッチon

3. PCモニタ電源on

4. PC起動

5. ソフトウェア (Leica Laser Microdissection)起動

薄切切片とPCRチューブのセット

1. Unloadをクリックし、ステージが手前に出てくるまで待つ。

2. スライドグラスをセット。組織が下向きになるようにする。

3. PCRチューブトレーを外して、PCRチューブをセットする。

4. PCRチューブのキャップに回収バッファー(Buffer RLT)を必要量入れる。

5. PCRチューブトレーを顕微鏡にセットして、Continueをクリック。

6. PCRチューブをモニタから選択する

②レーザーのキャリブレーション
1. エルゴコントローラーのボタンを使って、使用する対物レンズを選ぶ。
(高倍率の方がレーザーの密度が高くなり、その結果レーザーの出力を小さくできる)

2. サンプルが無い部分のフォイルがモニタに映っているようにステージを動かし、焦点を会わせる。

3. LaserのメニューからCalibrateを選択。

4. ポップアップのYesをクリック

5. 視野の右上に刻まれた十字とマウスのポインタの十字を重ねたら、クリック。

6. 同様に、左上、右下の十字をクリック。

7. OKをクリック。

注)対物レンズの倍率を変更したら、その度にキャリブレーションを行うこと。

試し切り(セッティング)

1. 切片の中でいらない部分をモニタに映し出す。

2. カッティングモードを選択する(Line、Circle、Rectのいずれかをクリック)。

3. マウスをドラッグしながら、切りとる部分を選択。

4. Cut ShapeのメニューからStart Cutをクリック。自動的に切り出しが始まる。


③レーザーの調整

試し切りできれいにカットできなかったときは、レーザーの出力(Laser Power)や、カットする速度(Speed)、カットラインの太さ(Line Thickness)、offset (レーザーの焦点)を調整する。

1. LaserメニューからControlを選択。

・Power : レーザーの出力を調整。(大きいほど良く切れるが、組織へのダメージも大きくなる)
・Speed : 切り出しの速度を調整。(遅いほど良く切れる)
・Specimen Balance : 切り終わりのときにレーザー出力を制御 (基本的には0でよい)

2. 設定を変更したら、Applyをクリック。

Line Thicknessの調整は後述。

offset(レーザーの焦点)の調節法
1. LaserメニューからControlを選択。
2. offsetの数値を変えて、applyをクリック。
3. Lineモードを選択し、組織の不要な部分を切ってみる。
4. きれいに切れるまで、offsetの数値を変えていく。
5. offsetの値が決まったら、OKをクリック。
offsetの数値が1だけ変わっても切れ方が大きく変化する場合があるので、こまめに調整すること。
設定の保存
切り出しの設定が決まったら、設定を保存する。
FlieメニューのSave Application Configurationから保存する。
(一度保存した設定は、使用頻度にもよるが2週間は有効)

保存した条件の読み出し
Restore Application Configurationから、保存した設定を選択し、開く。


④サンプルの切り出し
1. Lineまたは、Cirlce、Rectを選択し、マウスをドラッグしながら切り出す部分を囲む。
2. Start Cutをクリック。

切り出した切片の確認
1. Collectorをクリック。
2. バッファーの水面に焦点を合わせる。
3. 切り出した組織片を探す。

オーバービューの作製
1. Option→Settengs→Specimen Overviewを選択。
2. Create Specimen Overviewをクリック。
3. エルゴコントローラーでスキャン範囲の左上と右下、対物レンズを選択。(4xから試す)
4. Scanをクリック。

オーバービューからの操作
黄色の枠内をダブルクリック。
枠の色が緑になったら、目的の場所に枠を移動させ、ダブルクリックによって選択する。
ステージがその枠内に移動する。
マウスのホイールをまわすと拡大・縮小ができる。

オーバービュー画像の保存
Specimen OverviewのSave Overview Imageをクリック。

<その他>

カットラインの幅を変更する
Option→Settings→Cut Line AttributesのLine Thicknessから変更できる。
切り出しの精度は、同じくCut Line AttributesのLine Compressionから変更できる。
(1か2でほとんどの場合は対応できる。)

スケールバーの表示
View→Scale Barを選択。

長さの計測
Lengthをクリックし、始点から終点までマウスをドラッグする。



カッティングにおける原則

・カットラインの太さ(Line Thickness)は、対物レンズが高倍率になるほど細くすること。

・対物レンズが高倍率になるほど、レーザーの密度が高くなるので、レーザーパワーを下げたり、切るスピードを上げることができる。

・必ずしもカットラインの太さ(Line Thickness)を太くすれば切れやすくなるわけではない。カットラインの太さよりも、レーザーパワーの大小の方が、切れやすさにより影響する。

・高倍率にするほど、また切り取る面積が小さくなるほど、lineをより外側に設定するとよい。

・弱いレーザーパワーで同じ軌跡を何度もトレースするよりは、レーザーパワーを強めにして一発で切り取る方が、結果としてサンプルのダメージが小さい。


(参考) 標準的なセッティング例

x 20対物レンズでのセッティング
有効な最小切り出し面積(Rectモードで) 1,000 um2程度
最大切り出し面積(Lineモードで)80,000 um2程度
Laser Power 85~95
Line Thickness 1~2
Speed 3~5
offset 30前後
Specimen Balance 0

x 6.3対物レンズでのセッティング
有効な最小切り出し面積(Rectで) 5,000~6,000 um2程度
Laser Power 60~65
Line Thickness 1 or 2 (2を推奨)
Speed 1 or 2

x 10対物レンズでのセッティング
有効な最小切り出し面積(Rectで) 2,000 um2程度
Laser Power 60~65
Line Thickness 1 or 2 (1を推奨)
Speed 1 or 2
Specimen Balance 15程度

x 20対物レンズでのセッティング
有効な最小切り出し面積(Rectモードで) 1,000 um2程度
最大切り出し面積(Lineモードで)70,000 um2程度
Laser Power 85~95
Line Thickness 1~2
Speed 3~4
offset 30前後
Specimen Balance 20程度

x 40対物レンズでのセッティング
有効な最小切り出し面積(Rectで) 500 um2程度
Laser Power 80~95
Line Thickness 1~2
Speed 2~7
Specimen Balance

compression(カットラインの軌跡に関する情報量の圧縮率)は全ての対物レンズで1を選択しているが、x 40 以上で小さく切り出すときは0にする。
このエントリーをはてなブックマークに追加

このエントリーでは、レーザーマイクロダイセクションによる組織凍結切片の切り出しとRNA抽出のプロトコールをご紹介します。
本プロトコールのレーザーマイクロダイセクションでは、Leica MicrosystemsのAS LMD、また、RNA抽出にはQIAGEN RNeasy Micro Kitの使用を前提にしていますが、他のシステムでも適宜最適化することで適用可能と思われます。

未固定凍結標本の作製
・取り出した新鮮な組織をPBS-で洗い、O.C.T.コンパウンドで包埋。
・液体窒素で冷やしたイソペンタン中で凍結(イソペンタンがなければ、そのまま、液体窒素で凍結する)。
・ - 80度で保存。


未固定凍結標本の薄切と染色


準備

・染色ビンとスライドラック、LMD用フォイル付きスライドを180 ℃, 8 hr乾熱滅菌し、RNase-free化する。

・クライオスタットをRNase-free化する
1. RNase-OFF (Takara)をスプレーし、キムワイプでまんべんなく塗り広げる。
2. DEPC水をペーパータオルに含ませて、よく拭く。
刃と筆もRNase-free化しておく。
15 mLチューブにRNase-OFFを入れ、そこでブレードをソークする。次にDEPC水で2回すすぐ。

凍結サンプルを薄切する20~60 min前に、クライオスタット庫内に入れて、薄切時の庫内温度と凍結サンプルの温度を合わせておく。

乾熱によりRNase-freeにした染色バットへ固定液(EtOH : CH3COOH (19:1))、0.05 %トルイジンブルー、DEPC water (x3)それぞれを入れて、氷冷しておく。


クライオモールドから慎重に切片を取り外し、マウントする。
ポイント① 力が過度にかかると、OCTの内部に亀裂が入り、薄切したときに切片がちぎれてしまう。モールド越しに指で少し暖めると外れやすくなる。

ポイント② サンプルをクライオスタットにマウントする時は、少し左側にサンプルを付けると、切片をたくさんスライドグラスに貼れる。

ポイント③ マウントするときに、少しOCTをサンプルの手前側につけると、はけで切片を引っ張るときに便利である。→ つまみになる。

フォイル付きスライドグラスをクライオ庫内に入れて冷やす。

8 umの厚さで薄切する。

薄切したら、フォイルの面に切片を貼り付ける。貼り付けたら、裏側から指を当てて、4~5 sec待つ。これにより指の熱で、しっかりとフィルムに切片を付着する(ラテックスグローブ越しに微かに熱を加えるだけなので、RNAの分解は心配しなくてよい)。

EtOH : CH3COOH (19:1)で2.5 min固定。
クライオ庫内で固定液に入れ、それから染色バットをon ice。

DEPC waterで1 min洗浄(漬けておく)。on ice

0.05 %トルイジンブルーに15 sec漬けて、染色。

DEPC waterで30 sec洗浄。on ice

もう一度、別のDEPC waterで30 sec洗浄。on ice

水気を切って、LMDへ。
(ラックにスライドグラスをセットし、空の染色バットにいれて持ち運ぶとよい)
このエントリーをはてなブックマークに追加

今回のエントリーでは、免疫沈降のプロトコールを紹介します。
免疫沈降は「一に抗体、二に抗体、三四が無くて五にバッファー」であり、まずは抗体の性能が実験の成否を大きく左右します。また、バッファーも結果に影響することが少なくありません。

免疫沈降では、使える抗体は決して多くはありませんし、バッファーも実験ごとに最適化する必要があり、(塩濃度や界面活性剤の種類等)、こうした要素が免疫沈降をやや難しい実験にしています。上手くいかないときは、とことん上手くいかない類の実験ですので、原因を見極めて、どうするのか判断することが重要でしょう。そうでないと時間ばかり食ってしまいますから。

免疫沈降ではいくつかのバッファーが知られていますが、ここでは代表的な免沈用バッファーのひとつであるmodified RIPA bufferを使用しています。なお、modified RIPA buffer以外のバッファーを使う場合でも、このプロトコールで基本的には対応可能です。

Modified RIPA bufferの組成
・ Tris-HCl pH 7.4 : 50 mM,
・ NP-40: 1%
・ Na-deoxycholate: 0.25%
・ NaCl: 150 mM
・ EDTA: 1 mM
・ プロテアーゼ・インヒビターミックス (使用直前に添加)

※インヒビターミックスを使わない場合は、 PMSF: 1 mM, Aprotinin, leupeptin, pepstatin: 各1 ug/ml
 なお、PMSFは神経毒性があるので、取り扱いに注意。
また、リン酸化タンパク質を対象とする場合はホスファターゼ・インヒビター ( Na3VO4: 1 mM , NaF: 1 mM)も添加する。

<免疫沈降プロトコール>

0. modified RIPA bufferに各種プロテアーゼ・インヒビターやホスファターゼ・インヒビター(リン酸化タンパク質を対象とする場合)を加え、氷冷しておく。

プロテアーゼ・インヒビターにはPMSFやロイペプチン、ペプスタチン、E-64など様々なものがあるが、数種類のインヒビターが予め配合されたインヒビター・カクテルを使用するのが簡単でオススメ。


1. 培養細胞の培地をアスピレーター等で取り除いたら、培地と等量以上の37℃ PBS(-)を加え、その後PBS(-)を取り除く(培地を洗い流す)。続いて、4℃のPBS(-)で同様に洗浄を行う。その後、再度この操作を繰り返す。
この時、PBS(-)を直接細胞にかけないこと。また、冷えたPBS(-)を加えることで、細胞が剥がれやすくなるので、ディッシュに衝撃を加えないように注意する。なお、細胞は剥がれてしまったら、アスピレーターで吸い取ってしまわないように注意する。

どうしても細胞が剥がれる場合は、剥がれた細胞をPBSごと遠心チューブに移し、遠心してから上清を捨てる。

2. 細胞に氷冷しておいたmodified RIPA bufferを細胞107個あたり1 mL加える。

3.セルスクレーパーで、ディッシュに接着している細胞をはがしたら、modified RIPA Bufferごとマイクロチューブに移す(以降、これをcell lysateと呼ぶ)。この作業は低温室で行うことが望ましい。

4. cell lysateがゲノムDNAにより粘性を示す場合は、25Gの針を付けたシリンジでcell lysateを数回出し入れして、DNAを切断する。その後、cell lysateを低温室(4 ℃) にて20分間ローテーターで旋回するか、氷上に静置する。

5. cell lysateを15,000rpm、4 ℃で20分間遠心する。遠心後、上清を新しいマイクロチューブに移す。
作業を途中で止めたいときは、この上清を液体窒素で凍結し、-80 ℃で保存すること。

6. プロテインA or Gセファロースのビーズは20 %EtOH中で保存されているので、ビーズを5倍量のPBS(-)で洗う。(先端をカットしたチップをつけたピペッターで2、3回ピペッティングする。ボルテックスは使わないこと)
4 ℃、8,000 rpmで1分遠心し、上清を取り除く。この洗浄を3回行ったら、50 % slurry(ビーズ : PBS-( )=体積比で1:1の状態。目測で良い)にする。

*プロテインAとGのどちらを使うかは抗体の産生生物種や抗体のクラス・サブクラスによって決める。
こちらの表を参照→http://www.abcam.com/index.html?pageconfig=resource&rid=11385#c

7. 新しいマイクロチューブに500-1000 uLのcell lysateをとり、そこへプロテインA or Gセファロースのビーズを懸濁してから、cell lysate体積の2~5 %を加える。その後、低温室で20分間旋回させる。この操作によって、プロテインA or Gに付着するタンパク質を取り除くことができ、バックグラウンドを低くすることができる。

8. ビーズを分離するためにcell lysateを15,000 rpm、4 ℃で5分間遠心する。遠心後、上清を新しいマイクロチューブに移す。

9. cell lysateに目的のタンパクに対する抗体を加える。抗体の量はcell lysate 1 mLあたり、1~5 ugが標準的だが、抗体の力価によって異なってくるので最適化が必要。

10. 抗体を加えたcell lysateを低温室(4 ℃)で2 時間~overnight旋回させる。(ただし、タンパク質の分解を少なくするためには、overnightは避けた方が良い。)

11. 先端をカットしたチップを装着したピペッターで50 % slurryのプロテインA or Gセファロースを懸濁し、cell lysate体積の2~10 %を加える。そして、4 ℃で1時間旋回させる。


12. ビーズを回収するために、8,000 rpmで1分遠心する。

13. 上清の一部を新しいマイクロチューブにとり、残りは捨てる。上清の一部は、2×SDS sample bufferを加えてボイルする(100℃のヒートブロックで3分加熱)。

14. 遠心で回収したビーズを800uL程度の冷PBS(-)で3~5回洗う。(先端をカットしたチップをつけて優しくピペッティング→遠心→上清を捨てる) バックグランドを下げたいときは冷やしたmodified RIPA bufferを使ってもよい。

15. ビーズと等量程度の2×SDS sample bufferを加えて穏やかに懸濁する。その後、100 ℃で5分間加熱する。

16. ボイルしたサンプルを15,000 rpmで1分間遠心し、上清をウェスタンブロットに使用する。残った上清は-20 ℃で保存。(凍結したサンプルを再度使用する際には、100℃で3分加熱すること)


参考:バッファーやインヒビター類の調整はこちらのサイトが参考になります。
http://www.millipore.com/userguides/tech1/mcproto402

バッファーの最適化についてはこちらのサイトが参考になります。
http://www.abcam.com/index.html?pageconfig=resource&rid=11385
このエントリーをはてなブックマークに追加

今回のエントリーは、大腸菌を用いたタンパク質発現プロトコールの③の続きです(①〜③はこちら)。

8. 7で残った上清からタグを利用して発現させたタンパク質の濃縮を行う。以下はHisタグを使用した場合の例
a. イミダゾール/HCl(pH 7.9)を最終濃度1mMになるように、7の上清に加える。
b. aにLysis Bufferで平衡化したNi-agarose(50%スラリー)を撹拌してから50uL加える。
c. コールドルーム(4℃)で1時間ローテーションしたら、2,000 rpm, 4℃で1分遠心。
d. 上清を30uLとり、同量の2X SDS sample bufferを加えて、ボルテックスしたら、100℃で3分加熱し、-20℃で保存。
e. 上清を捨て、新しいLysis bufferを1mL加え、軽くピペッティング。その後、2,000 rpm, 4℃で1分遠心。これをもう一度繰り返す。
f. 上清を捨て、50uLの2X SDS sample bufferを加えて、ボルテックスしたら、100℃で3分加熱。

IPTG誘導前のサンプル(プロトコール③のステップ5)、誘導後のサンプル(6)、可溶画分(7の上清)、不溶画分(7の沈殿物)、濃縮サンプル(8)のそれぞれをSDS-PAGEにかけて、クマシー染色することで、以下のことを確認する。(初めて実験する際には、空ベクターで形質転換した大腸菌に由来するサンプルも同時にSDS-PAGEにかけ、本ベクターで形質転換した大腸菌由来サンプルと比較する。→IPTGで誘導がかかるタンパク質が空ベクターをもつ大腸菌には現れないことを確認)

・IPTGよる発現誘導がきちんとかかっているか。
・可溶画分と不溶画分のどちらに目的のタンパク質が多く存在しているか。

Lysis Bufferの種類によって、目的のタンパク質の画分が変わることがある。もし、目的のタンパク質を可溶画分で取りたければ、バッファーのpH(バッファーのpHがタンパク質の等電点になっていると沈殿する)や界面活性剤の種類、濃度等を変えてみる。

以上の実験により、目的のタンパク質の発現が確認できたら、発現誘導条件の最適化を行なう。
最適化は以下の項目を調整することで行うが、SDS-PAGEの結果から、濃縮しなくてもタンパクの発現を評価できる場合は、ステップ5,6ないし7までのサンプルでSDS-PAGEを行い、8は省略してもよい。

発現誘導条件の検討
タンパク質の発現量や可溶性は発現誘導時の条件によって大きく変化する。発現させたタンパク質の使用目的に合わせて誘導条件の最適化をおこなう。

・IPTG誘導時のO.D.600 ・・・0.4を試してから、0.2~0.6の間で最適化
・培養温度・・・37 ℃を試してから、18~30 ℃の間で最適化
・IPTG誘導後の培養時間・・・2 時間を試してから、1.5~4 時間で最適化
・IPTG濃度 0.4 mMを試してから、0.1~0.6 mMで最適化


発現タンパク質の定量
10 mLスケールの発現で得られたタンパク質をSDS-PAGEにより定量する。これによって、必要な量のタンパク質を得るためには何リットルで培養すればよいかを決めることができる。
サンプルと共に、濃度が既知のBSA(Bovine Serum Albumin)を、段階的に量を変えてアプライし、泳動後にクマシーブリリアントブルーで染色する。そして、サンプルのバンドの濃さとBSAのバンドの濃さを比較し、タンパク質の発現量を推定する。より正確に定量したい場合は、染色したゲルをスキャンし、Image Jなどの画像解析ソフトを利用して定量する。

<可溶性タンパク質の収量を増やすには>
標準的なプロトコール(IPTG添加後、37 ℃で2〜3 時間培養することでタンパク質を発現させる)で、十分な量の可溶性タンパク質(可溶画分で取れるタンパク質)を得ることができない場合は、以下の条件検討を試みるとよいでしょう。この方法は発現システムで有名な某M社の営業さんから直接教えていただいたもので、場合によってはかなりの効果を発揮します。

1. IPTG添加後、37℃よりも低い温度(18~30 ℃)で大腸菌を培養することでタンパク質を発現させる。
(温度を下げた分、培養時間は適宜延長する)
1でダメなら、下記の2を試す。
2. 培地に予めグルコースを1 %になるように添加しておき、IPTG添加後、18~30 ℃で培養する。
グルコースの添加により、IPTG添加前に目的のタンパク質がじわじわと発現(リーク)するのを防ぐ。
2でもダメなら、3を試す。

3. 2の条件下で培養した後、IPTGと同時にエタノールを3-4 %(最終濃度)になるように加えて、18~30 ℃で培養する。エタノールの添加により発現したヒートショックプロテインが封入体形成を抑えることがある。



スケールアップ

上述した方法等により、小スケールで発現させたタンパク質の量を見積り、そのデータから必要な量のタンパク質を得るにはどれくらい培養をスケールアップすればよいのか計算する。
そして、最適化した条件の元で発現を行い、精製するが、精製についてはキットのプロトコールに従って実施する。



大腸菌を用いたタンパク質の発現①
大腸菌を用いたタンパク質の発現②
大腸菌を用いたタンパク質の発現③
このエントリーをはてなブックマークに追加

大腸菌におけるタンパク質発現の条件検討

以前のエントリー、大腸菌を用いたタンパク質の発現②の続きです。

グリセロールストックができたら、次にタンパク発現の確認と条件検討を行います。これはラージスケールでの大量調整の条件を決定するための重要な実験になります。
まずは、培養液10 mLのスケールで目的のタンパク質の発現を誘導し、タンパクがきちんと発現するかどうか確認します。タンパクの発現が確認できたら、次に最適な発現誘導条件を見つけるための条件検討を行います。

<前培養>
1. 凍っているグリセロールストックをピペッターに装着したイエローチップの先でつつき、抗生物質を入れた2 mLのLB培地に植菌。(使用済みチップを捨てる時のように、ピペッターのイジェクトボタンを押して、チップを培養液に投下する)37 ℃で振とう培養する。 ※グリセロールストックは融解させずに使うこと。

目的のタンパク質をコードするcDNAを挿入していない空ベクターで形質転換した大腸菌も同様に培養する(ネガティブ・コントロールとして)。

2. およそ4~6時間後に培養液が濁り始める。O.D. 600が0.6~0.8に達したら、培養液を1.5 mLマイクロチューブに移し、4℃で保存する。(overnight〜2,3日以内に次のステップに移行すること)
ここで、実験の区切りをつけられるが、時間的に余裕がある場合は、すぐに次のステップへ移っても良い。

<タンパク質の発現と分析>
3. 2の大腸菌を5,000 rpm、4 ℃で3分間遠心し、上清を取り除く。この時、アスピレーターorピペッターを使い、できるだけ上清を取り除くこと。

4. ペレットを1 mLのLB培地(抗生物質は入れなくてよい)で懸濁し、集菌(5,000 rpm、4 ℃で3分間遠心)する。
  上清を捨てた後、同様にペレットを再びLBで懸濁して、それを抗生物質の入った10 mLのLBに100 uL植菌する。

*この操作の意義
培養上清には大腸菌が産生した抗生物質の分解酵素が含まれているため、培養上清を次の培養にまで持ち越してしまうと、この分解酵素によって培地に添加された抗生物質がすぐに無効化してしまい、発現ベクターを失った大腸菌や他の細菌が増殖する可能性がある。そのため、大腸菌ペレットを新しいLB培地でリンスして、培養上清の持ち越しを防ぐ。

5. O.D. 600が0.4になったら(2~3 時間程度かかる)、0.5 mLの培養液をIPTG誘導前のサンプルとしてマイクロチューブに移す。残りの9.5 mLにはIPTGを最終濃度で0.4 mMになるように加える。(ネガティブ・コントロールの空ベクターを持つ大腸菌についても同様に)

取り分けた0.5 mLのサンプルは5,000 rpmで3 分遠心し、上清を取り除くが、30 uLくらいの上清を残すようにする。その後、ボルテックスにかけて懸濁し、2×SDS sample bufferを30 uL加えて再び、ボルッテクスにかける。さらに100 ℃のヒートブロックで3 分加熱し、-20 ℃で保存する。(後でSDS-PAGEにかける)

<IPTG溶液(1M)の調整>
2.4gのIPTGを滅菌MilliQ水に溶解した後10mLにメスアップする。次に0.22umのフィルターでろ過滅菌し、0.5mLずつマイクロチューブに分注して-20℃で保存。


<2X SDS Sample Bufferの調整>
2X SDS Sample Buffer (0.125M Tris-HCl pH 6.8, 4% SDS, 20% glycerol, 0.2M DTT, 0.02% BPB)
・0.5 M Tris-HCl pH 6.8 (SDS-PAGEのstacking gel bufferそのもの) 12.5 mL
・10% SDS  20mL
・グリセロール 10mL (=12.6g;グリセロールの比重=1.26のため)
 (グリセロールは粘度が高く、体積が測りにくいので電子天びん上にビーカーを置き、重量を計りながら、加える)
・DTT 1.55 g
・ブロモフェノールブルー(BPB, bromophenol blue) 10mg
MilliQ水で50mLにメスアップ。

十分に溶けたら、マイクロチューブや15mLチューブ(いわゆるコーニングチューブ)に適当に分注して、-20℃で保存。

*BPBの秤量が困難な場合は、BPBのストック水溶液を予め調整しておき、それを使用する。
プロトコールによっては、Tris-HClが0.1Mのものもある。どちらでもよい



6. IPTG添加後、2 時間経過したら培養を止める。この培養液を0.5 mL取り分け、誘導前のサンプルと同様の処理を行い、SDS-PAGE用のサンプルにする。
残りの培養液は15 mLの遠心管に移し、5,000 ×gで5 分間遠心する。

7. 上清を取り除き、Lysis Bufferを1 mL加え、ボルッテクスで懸濁し、1.5mLマイクロチューブに移す。ここで、実験を止めたければ、このサンプルを液体窒素で凍結させて-80 ℃で保存する。(このLysis bufferを加えたサンプルを以降、E.coli Lysateと呼ぶことにする。)

Lysis Bufferの組成
10mM Tris-HCl (pH 7.9), 10% グリセロール, 0.5% NaCl, 0.1 % NP-40, 5 mM 2-メルカプトエタノール, 1 mM PMSF

・メルカプトエタノールとPMSFは使用する直前に加えること。また、どちらも毒性があるので取り扱いには注意。
・Lysis BufferのpHは発現させるタンパク質の等電点によって調整すること。バッファーのpHが等電点と同じになると、タンパク質が沈殿し不溶画分でしか取れなくなる。
なお、タンパク質の等電点(理論値)を計算するには、ExPASyのウェブツールが便利。
http://web.expasy.org/compute_pi/
・ここに示したLysis Bufferの組成は一例で、他にも様々な組成のLysis Bufferがある。


続きは、次回以降のエントリーで。


大腸菌を用いたタンパク質の発現①
大腸菌を用いたタンパク質の発現②
続きを読む
このエントリーをはてなブックマークに追加

↑このページのトップヘ