[Masur - Wikipedia]


久々の更新です。
まず本題に入る前に、"あの話題"について少し書こうと思います。
世間を未だに騒がせているSTAP細胞事件については、管理人もいろいろと思うところがあり、これまでにtwitterで、婉曲的なものも含めて、個人的な見解や感想を少し書きましたが、そのうち考えがまとまったら、こちらでも書きたいと思います。

管理人の仕事も職場もSTAP細胞や理研とはほとんど関係が無いのですが、それでも1月末の論文発表以来、継続的に業務に少なからぬ影響があったのは驚きでした。最初はポジティブだった影響が徐々にネガティブなものに変わっていったのは、全く笑えませんしたが。
また、さすがに詳細は書けませんが、不正の発覚が遅れていたら、とんでもないことになっていたであろう公的な動きがあったことも耳にしました。今回の事件については、まだまだ未解決の問題が山積みですが、それでも不正が早い時期に明らかになったことは不幸中の幸いであり、ネットを中心に問題提起と検証に関わった多くの方々に敬意を表します。


さて、今日のエントリーの本題です。
少し前の話(3月末)になりますが、真核生物の染色体の人工的な合成に初めて成功したことが、Science誌に報告されました。
ここでは、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)の3番染色体について、その配列情報を元にDNA断片を合成し、つなげ合わせて数百bpのフラグメントにし、さらにそのフラグメントをつないで2〜4千bpまでした後に、lox Pシステムでネイティブな染色体の配列を人工合成したものに置き換えていくという手法が取られています。
この約27万塩基対の人工染色体はネイティブな染色体からイントロンやtRNA遺伝子、トランスポゾンなどを省いているものの、完全に機能することが確認されています。

今回の発表や最近話題沸騰中(と言っていいでしょう)のゲノム編集ツールCRISPRなどを見るにつけ、ゲノミクスやジェネティクスも新しい段階に入ってきたことを実感させてくれます。

また、染色体の人工合成に初めて成功したことは素晴らしい成果なのですが、管理人の興味を惹いたのは、このプロジェクトにアメリカやイギリス、オーストラリア、中国、シンガポールなどから多くの学部生が参加していることです。彼らは主に合成したヌクレオチドをつなぎ合わせる作業を担当しています。学部生の参加は、人件費を抑えるというリーダー側の目的も、もちろんあったはずですが、意欲の高い学部生にとって、国際プロジェクトに参加し、実験できることは、貴重な機会になるはずで、ここにはwin-winの良い関係があります。

今回のプロジェクトは最近よく耳にするようになった「Team Science」の好例でもあります。学問分野の細分化や技術の高度化や進んだ現在、インパクトのある成果(インパクトファクターとの混同に注意)やイノベーションの創出、社会問題の解決には、様々な研究者が連携したチームでの研究や開発が欠かせません。しかし、日本では未だに、個々の研究者の力でなんとかしようとする考え方が根強いように思われます。それでは、グローバル化が進んだサイエンスで生き残っていくことができるのでしょうか? そろそろ意識を変えるだけでなく、行動に移さないと取り返しのつかない地点に差し掛かっているような気がします。