2013年04月

今年もトムソン・ロイターから、論文の引用動向からみる日本の研究機関ランキングが発表されました。

全分野の論文被引用数を機関別にみた場合はこちらのにあるように、1位が東大(17位)、2位 京大(35位)、3位 阪大(47位)、4位 JST(59位)、5位 東北大(77位)となっています。 ※カッコ内は世界順位
被引用数は基本的には発表論文数が多いほど多くなりますから、どうしても規模の大きな研究機関が有利になってしまいます。そこで、論文の質という観点から平均引用数で並べてみると、

1位 JST ・・・そりゃ、ERATO, Crest,さきがけ etcがありますからね...
2位 理研・・・まあ、順当。
3位 自然科学研究機構・・・基生研、生理研、分子研など擁してますから納得
4位 東京医科歯科大学・・・研究レベル+医学系は引用数が大きい傾向のおかげ?
5位 東大
6位 阪大
7位 京大



となっており、独法が強い結果となりました。

また、生物学・生化学分野で、平均引用数の順に並べてみると、
1位 JST
2位 理研
3位 東大
4位 京大
5位 阪大


となっています。平均引用数については上記のリンクを参照して欲しいのですが、JSTが飛び抜けていて、それ以降は僅差となっています。また、材料系では強い東北大がこの分野ではそれほどでもなかったりして、大学の特色がみえてくるのも面白いところです。おそらく、付属研究所の有無などもかなり影響しているのでしょう。


全分野をまとめて、国別でみた場合、日本は論文数、被引用数、平均被引用数のいずれも前年より上昇しているものの、中国等の台頭によって、相対的に世界順位は低下しているとのことです。
まあ、これ自体は仕方がないことでしょう。実際、論文数のシェアは日本だけでなく欧米も低下していますので。
ただ、問題なのは、少し前に話題になっていた文科省の研究費部会の資料に示されているように、Top10%補正論文数*のシェアが英・独・仏は伸びているのに対して、日本は低下している点でしょう。
これについては各紙社説や研究者のブログ等で、様々な意見が出ていましたが、どれも決定的な見解を提出しているようには思えません。もちろん、私ごときが完全な解決策を見つけることなどできるはずもありませんが、個人的には、研究費の重点配分でもバラマキでもダメだと思っています。研究をやる人ではなく、やれる人にきちんと研究費がまわる仕組みを作ること、それが必要と感じています。そのために何をすべきか、いろいろと思考する毎日です。

*被引用回数が各年各分野で上位10%に入る論文の抽出後、実数で論文数の1/10となるように補正を加えた論文数


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論文を評価する指標として、被引用数は代表的なものの一つです。これは専門家による評価に基づいており、分野ごとの研究者人口によって左右されるものの、それなりに信頼できる指標です。
それに対して近年、専門家による閉じた世界での評価だけでなく、一般市民をも含めたよりオープンな評価の指標が現れつつあります。そう、ソーシャルスコアです。注目を集める論文はFacebookやTwitterにより、瞬く間に共有され、拡散されていきます。
ソーシャルネットワークでどれくらい話題になっているのか簡単に調べることができれば、"ホットな"論文探すのに一役買うはずで、それを論文検索のついでにしてしまおうという考えが出てくるのも不思議ではありません。そんなサービスのひとつとして論文検索Qrossのベータ版が3/25にローンチされたので、試しに使ってみました。

下の画像は、今年の1月に発表されたインスリンとその受容体の構造解析に関する論文のものですが、
こんな感じで、FacebookやTwitter、Mendeleyでの共有状況やツイート数などを示してくれます(ツイート数に関しては、いまのところ上手く集計できていないようですが)。


こういったソーシャルスコアのメリットは何でしょうか?
そのひとつは迅速性でしょう。
ある論文の被引用数は、その論文に基づいた研究がなされ、別の論文に引用されることで生成するわけで、もとの論文が発表されてから引用されるまでに年単位の時間がかかってしまいます。それに対してソーシャルスコアは論文がジャーナルのサイトにアップされた時からすぐに発生します。また、マスへどれだけアピールしたかを示せることやレスポンスの多様性も被引用数には無いものです。

一方で、デメリットは何でしょうか?
それは、必ずしも専門家が「いいね!」を押したり、呟いているわけではないことと、いわゆる炎上でも高いスコアが出てしまうことでしょう。

結局のところ、ソーシャルスコアとは論文を学術的に評価する指標ではなく、論文に対する注目度をざっくりと示すものと考えるべきでしょう。
では、論文のソーシャルネットワークにおける状況を把握することは何かの役立つのでしょうか?
まずは、発表されて間もない論文の評価を手っ取り早く知るツールとして使えるでしょう。その論文をじっくり読む必要があるか、それともスルーできるかを判断する材料のひとつになります。また、タイムラインを追えば、その論文に対する批評や解説を簡単に見つけられるでしょうし、評価がどのように変化していくかもわかるでしょう。加えて、自分の論文に対するネット上のレスポンスを見るのにも有効です。ソーシャルスコアとその内容を追うことに、こうした有用性がある以上、これは有りだと管理人的には思うわけです。

論文検索Qrossβまだまだユーザービリティや表示速度で改善の余地はありますが、面白いツールだとは思います。また、少し類似した機能をもつAltmetricも、洗練されたUIを持っており、お勧めです。
まずは自分の論文のソーシャルスコアを見てはいかかでしょうか?
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