2013年01月

大腸菌におけるタンパク質発現の条件検討

以前のエントリー、大腸菌を用いたタンパク質の発現②の続きです。

グリセロールストックができたら、次にタンパク発現の確認と条件検討を行います。これはラージスケールでの大量調整の条件を決定するための重要な実験になります。
まずは、培養液10 mLのスケールで目的のタンパク質の発現を誘導し、タンパクがきちんと発現するかどうか確認します。タンパクの発現が確認できたら、次に最適な発現誘導条件を見つけるための条件検討を行います。

<前培養>
1. 凍っているグリセロールストックをピペッターに装着したイエローチップの先でつつき、抗生物質を入れた2 mLのLB培地に植菌。(使用済みチップを捨てる時のように、ピペッターのイジェクトボタンを押して、チップを培養液に投下する)37 ℃で振とう培養する。 ※グリセロールストックは融解させずに使うこと。

目的のタンパク質をコードするcDNAを挿入していない空ベクターで形質転換した大腸菌も同様に培養する(ネガティブ・コントロールとして)。

2. およそ4~6時間後に培養液が濁り始める。O.D. 600が0.6~0.8に達したら、培養液を1.5 mLマイクロチューブに移し、4℃で保存する。(overnight〜2,3日以内に次のステップに移行すること)
ここで、実験の区切りをつけられるが、時間的に余裕がある場合は、すぐに次のステップへ移っても良い。

<タンパク質の発現と分析>
3. 2の大腸菌を5,000 rpm、4 ℃で3分間遠心し、上清を取り除く。この時、アスピレーターorピペッターを使い、できるだけ上清を取り除くこと。

4. ペレットを1 mLのLB培地(抗生物質は入れなくてよい)で懸濁し、集菌(5,000 rpm、4 ℃で3分間遠心)する。
  上清を捨てた後、同様にペレットを再びLBで懸濁して、それを抗生物質の入った10 mLのLBに100 uL植菌する。

*この操作の意義
培養上清には大腸菌が産生した抗生物質の分解酵素が含まれているため、培養上清を次の培養にまで持ち越してしまうと、この分解酵素によって培地に添加された抗生物質がすぐに無効化してしまい、発現ベクターを失った大腸菌や他の細菌が増殖する可能性がある。そのため、大腸菌ペレットを新しいLB培地でリンスして、培養上清の持ち越しを防ぐ。

5. O.D. 600が0.4になったら(2~3 時間程度かかる)、0.5 mLの培養液をIPTG誘導前のサンプルとしてマイクロチューブに移す。残りの9.5 mLにはIPTGを最終濃度で0.4 mMになるように加える。(ネガティブ・コントロールの空ベクターを持つ大腸菌についても同様に)

取り分けた0.5 mLのサンプルは5,000 rpmで3 分遠心し、上清を取り除くが、30 uLくらいの上清を残すようにする。その後、ボルテックスにかけて懸濁し、2×SDS sample bufferを30 uL加えて再び、ボルッテクスにかける。さらに100 ℃のヒートブロックで3 分加熱し、-20 ℃で保存する。(後でSDS-PAGEにかける)

<IPTG溶液(1M)の調整>
2.4gのIPTGを滅菌MilliQ水に溶解した後10mLにメスアップする。次に0.22umのフィルターでろ過滅菌し、0.5mLずつマイクロチューブに分注して-20℃で保存。


<2X SDS Sample Bufferの調整>
2X SDS Sample Buffer (0.125M Tris-HCl pH 6.8, 4% SDS, 20% glycerol, 0.2M DTT, 0.02% BPB)
・0.5 M Tris-HCl pH 6.8 (SDS-PAGEのstacking gel bufferそのもの) 12.5 mL
・10% SDS  20mL
・グリセロール 10mL (=12.6g;グリセロールの比重=1.26のため)
 (グリセロールは粘度が高く、体積が測りにくいので電子天びん上にビーカーを置き、重量を計りながら、加える)
・DTT 1.55 g
・ブロモフェノールブルー(BPB, bromophenol blue) 10mg
MilliQ水で50mLにメスアップ。

十分に溶けたら、マイクロチューブや15mLチューブ(いわゆるコーニングチューブ)に適当に分注して、-20℃で保存。

*BPBの秤量が困難な場合は、BPBのストック水溶液を予め調整しておき、それを使用する。
プロトコールによっては、Tris-HClが0.1Mのものもある。どちらでもよい



6. IPTG添加後、2 時間経過したら培養を止める。この培養液を0.5 mL取り分け、誘導前のサンプルと同様の処理を行い、SDS-PAGE用のサンプルにする。
残りの培養液は15 mLの遠心管に移し、5,000 ×gで5 分間遠心する。

7. 上清を取り除き、Lysis Bufferを1 mL加え、ボルッテクスで懸濁し、1.5mLマイクロチューブに移す。ここで、実験を止めたければ、このサンプルを液体窒素で凍結させて-80 ℃で保存する。(このLysis bufferを加えたサンプルを以降、E.coli Lysateと呼ぶことにする。)

Lysis Bufferの組成
10mM Tris-HCl (pH 7.9), 10% グリセロール, 0.5% NaCl, 0.1 % NP-40, 5 mM 2-メルカプトエタノール, 1 mM PMSF

・メルカプトエタノールとPMSFは使用する直前に加えること。また、どちらも毒性があるので取り扱いには注意。
・Lysis BufferのpHは発現させるタンパク質の等電点によって調整すること。バッファーのpHが等電点と同じになると、タンパク質が沈殿し不溶画分でしか取れなくなる。
なお、タンパク質の等電点(理論値)を計算するには、ExPASyのウェブツールが便利。
http://web.expasy.org/compute_pi/
・ここに示したLysis Bufferの組成は一例で、他にも様々な組成のLysis Bufferがある。


続きは、次回以降のエントリーで。


大腸菌を用いたタンパク質の発現①
大腸菌を用いたタンパク質の発現②
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今回のエントリーは大腸菌を用いたタンパク質の発現②ということで、で解説したBL21株の形質転換に続き、グリセロールストックの作製について説明します。

<形質転換した大腸菌のグリセロールストック作製法>
タンパク質発現用に形質転換した大腸菌を保存する際には、マスタープレートの作製よりも、グリセロールストックを作ることを推奨します。これは、グリセロールストックの方が長期保存に適し、長期に渡って同じ菌株を使用できるというメリットがあるためです。
通常、形質転換した大腸菌のグリセロールストックを作る際はグリセロールの最終濃度が15%とされていることが多いのですが、pETベクターはグリセロール濃度が10 %を超えると不安定化するとされており、7-8 %程度にします。
なお、個人的な経験ではpET以外のプラスミドでも、グリセロール濃度8%で長期保存は可能でした。


1. 単一のコロニーを滅菌済みのチップor爪楊枝でピックアップし、クロラムフェニコールとpETベクター選択用の抗生物質を含むLB培地に植菌する(LB培地の量は必要なグリセロールストックの量に応じて決める。通常は5 mL程度でよい) 。

2. 37 ℃で振とう培養する。 途中で吸光度を測りながらO.D. 600が0.6~0.8に達するまで培養する。

3. 大腸菌を培養している間に、1.5mLマイクロチューブに80 uLの80 % グリセロール(グリセロール : MilliQ= 8 : 2(体積比)で混合し、オートクレーブ滅菌したもの)を分注しておく。80%グリセロールは粘度が高いので、先端をカットして、穴の径を大きくしたチップを使用すること。

4. O.D.600が0.6~0.8まで達したら、80 % グリセロールが入っているマイクロチューブにその培養液を720 uL加え、かるくボルッテクスにかける。その後、液体窒素で凍結し、-80 ℃で保存。
また、培養液を2 mL程度残しておき、それをミニプレップ→電気泳動して、発現ベクターを保持しているか確認する。
このようなグリセロールストックを5個程度のコロニーから作っておく。また、cDNAが挿入されていない空の発現ベクターによって形質転換した大腸菌からもストックを作っておく。(ネガティブコントロール用として)


これで、ようやくタンパク発現用のベクターを持った大腸菌の準備ができました。続いて、この大腸菌を使い、小スケールによるタンパク発現の条件検討を行いますが、それについては、また後日に説明します。


大腸菌を用いたタンパク質の発現①
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