2012年12月

年内最後のエントリーです。

毎年のことですが、Science誌のBreakthrough of the yearやThe Scientists誌のTop 10 Innnovations が発表されると、年末になったことを実感します。

今年は何と言っても山中先生のノーベル賞受賞が話題になりましたが、それによって一般市民の方々が今まで以上にライフサイエンスに関心を持つようになりました。ライフサイエンス研究に対する理解と支援が国家から一国民にいたるまで、あらゆるレベルで増進するきっかけになるでしょう。
一部の研究者の中には、国の予算が再生医療分野ばかりに集中するのではないかという危惧もあるようですが、今回の受賞で、ライフサイエンスの重要性に対する国民の認識が向上したことは、再生医療以外の分野にも恩恵をもたらすはずです。(実際、再生医療とは直接関係のないバイオベンチャーへの投資も増えています)
また、第四期科学技術基本計画ではライフイノベーションの重要性が強調されていますが、今回のノーベル賞は、そのための施策をさらに推進するのに一役買うはずです(少なくとも間接的には)。

研究成果という観点から今年を振り返ると、国内外でがんやiPS細胞関連、エピゲノムをはじめとし、いくつかの分野で新展開を期待させる重要な発見がありました。また、次世代シーケンサーなど技術面でも大きな進歩が見られ、総じて今後の研究のさらなる加速に向けた手がかりやツールが数多く得られた一年だったと思います。
また、日本の研究体制に関しては、現在、文科省の主導でCenter of Innovation(COI)構想が進んでいます。これが実施されれば、今までにないイノベーション創出のための研究開発が始まるでしょう。

こうして振り返ってみると、今年は実に様々なことが胎動し始めた年に思えます。今後、加速度的に研究の在り方が変化していくように思えてなりません。
老婆心ながら管理人が読者の皆様に申し上げたいのは、そういった状況の変化に柔軟に対応し、チャンスを掴み取れるようになって頂きたいということです。そのためには、毎日のベンチワークも重要ですが、もっと外の世界に対するアンテナを張り巡らせて、自分のキャリアをどう築いていくのか常に考えて行動することが必要です。学部生とて例外ではありません。また、サイエンスを活かせるキャリアパスは以前よりも明らかに多様になり、増えてきています。ぜひ、様々な可能性を探って頂きたいと思います。

少々長く書いてしまいましたが、来年もLablogueはライフサイエンス研究に関わる方々のお役に立つ、様々な情報を微力ながら発信していきたいと思います。

本年も当ブログをご覧いただき、ありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。

Lablogue管理人
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昨日、かねてより大きな注目を集めていた、非営利のオープンアクセス(OA)ジャーナル「eLIFE」が正式にローンチされました。eLIFEは世界的に著名な研究助成機関であるイギリスのWellcome Trustアメリカのハワード・ヒューズ医学研究所(HHMI)等の支援により創刊されたもので、ライフサイエンス分野の顕著な成果を発表するためのOAジャーナルです。少々乱暴な言い方をすれば、OA版のNatureやCellを創ろうというものです。

OAで発表される論文は年々増えており、昨年は全論文のうち約17%がOAジャーナルに掲載されるまでになりました(1)。そのような中で、PLoS ONEやBMJなど様々なOAジャーナルが存在していますが、大きなインパクトを持つ論文は、どうしてもNatureやScienceなどのHigh Profileな商業誌に報告される傾向があります。しかしながら、これでは購読の壁(Pay wall)に阻まれ、商業誌を購読できない研究者や一般の納税者はその論文にアクセスすることができません。
eLIFEは、こうした問題を解決する手段のひとつになるでしょう。

また、以前のエントリーで詳しく紹介しましたが、eLIFEは単にOA版のCellを目指すのではなく、論文を投稿する研究者の立場に立った新しい論文出版モデルの構築にも取り組んでいます。具体的には、投稿〜査読〜掲載に至るプロセスが可能な限り簡素化され、迅速化されるとともに、公平性・透明性の確保にも配慮されています。これは多くの研究者がかねてより熱望してきたことでした。

先ほど、正式にオープンしたeLIFEのサイトを覗いてきましたが、論文閲覧のしやすさに驚きました。論文中のリファレンスにマウスオーバーするだけで詳細な文献データが参照でき、リンクからすぐに文献に飛ぶことができます。また、論文をスクロールしてもサイドバーが追従してくれるので、容易に別のセクションに移動でき、本当に快適に論文を読むことができます。さらに、リファレンス・データの取得や、Facebook、Twitter等による論文の共有が非常に簡単にできるようになっています。このeLIFEのユーザーインターフェースは、これからのあらゆるジャーナルが参考とすべき指標になるでしょう。
百聞は一見に如かず。まずは、ぜひご自身で体験してみてください。

この革新的で、なおかつ論文著者と読者の双方に極めてフレンドリーなこのジャーナルが、当初の目標通りにOAでありながら、NatureやCellと同等以上のHigh Profileなジャーナルになることを願ってやみません。
また、日本の研究者による積極的なサポートにも期待したいものです。


Ref.(1)http://www.biomedcentral.com/1741-7015/10/124


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つい先日、次世代シーケンス技術を特集したnature biotechnologyの特別号が無料公開されました。
http://www.nature.com/nbt/focus/sequencing2012/index.html

ベンチャーから大企業までが入り乱れ、覇権を争うこの分野は本当に日進月歩で、ちょっと目を離しているうちに知見が周回遅れになりますから、今回の特集はキャッチアップするにはちょうどよさそうです。

多くの研究現場では、DNAシーケンサーというと、作製したコンストラクトをチェックするためにクラシックなサンガー・シーケンサー(ABI 310とか)しか使わない人が未だ大半かもしれませんが、次世代シーケンサーとその成果は、今後そのような人たちにも間接的にではあれ、様々な影響を及ぼすと思われます。
ですから、このあたりで今のシーケンサーの世界を少し覗いてみるのもいいのではないでしょうか。
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今回のエントリーから、組換えタンパク質の発現プロトコールを説明していきます。
タンパク質の発現系には酵母を用いるものや昆虫細胞を用いるものなど様々なものがありますが、ここでは最も一般的な大腸菌の系について説明します。
大腸菌を用いたタンパク質の発現系には大腸菌株やプラスミドの違いにより、いくつかのタイプに分かれますが、このエントリーでは大腸菌BL21株とpETベクターを用いた発現系のプロトコールを紹介します。
なお、ここでは、既に目的の遺伝子を組み込んだpETベクターが完成していることを前提とし、それ以降の実験について説明していきます(ベクターの作製については過去のエントリーを参考にしてください)


<タンパク質発現までの準備>
大腸菌を使ったタンパク質の発現では、まず発現宿主となる大腸菌株を発現ベクター(ここではpETベクター)で形質転換することから始まります。

発現宿主BL21(DE3)株の形質転換

1. BL 21はJM 109やDH 5αなどの大腸菌株に比べて、形質転換効率が悪いので(1/10程度)、コンピテントセル100 uLあたり、10~100 ng程度の発現ベクターを使って形質転換させる。
 DNAをコンピテントセルに加えたら、氷上に30分程度置く。(この間に、SOC培地を準備する)

2. 42 ℃で30秒間ヒートショックを与え、その後すばやく氷上で冷やす。

3. SOC培地をコンピテントセルの3~4倍量加え、37 ℃で30~40分インキュベートする。形質転換したBL 21株はクロラムフェニコール(翻訳阻害作用をもつ)により選択するので、この過程は省略不可。少し長めにプレ培養(40 分程度)した方がより多くのコロニーが得られる傾向がある。

4. インキュベート後、室温、5,000 rpmで3分遠心する。その後、上清を100uLくらい残るまで取り除き、残った100 uL程度をボルテックスで懸濁してLB寒天培地[クロラムフェニコール(30 ug/mL)とpETベクター選択用の抗生物質を含むもの。アンピシリンならば100 ug/mL]に全量まく。

5. 37 ℃でオーバーナイト培養。形成されたコロニーをピックアップして、抗生物質を添加したLB培地(液体)でそれをさらに培養。その後、グリセロールストックをつくる。グリセロールストックの作り方は次回のエントリーで。
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