2012年08月

ここまで3回に渡って、細胞の免疫染色プロトコールを紹介してきました。
今回は、その続きとして免染の最終段階である細胞核の染色と封入について説明します。

⑥核の染色と封入
DNAに結合する蛍光色素(DAPI, 4',6-diamidino-2-phenylindoleなど)が添加してある封入剤を使用して核染色と封入を同時に行う方法と、核を染色した後に封入する方法があります。

方法1:核染色と封入を同時に行う方法

1. DAPI入りの市販封入剤*をスライドグラス(スライドグラスは予め70%エタノールとキムワイプを使って、表面をきれいにしておくこと)に1,2滴のせる。
* Vectashield H-1200やProlong Gold with DAPIなど。

2. ピンセット*を使ってディッシュからカバーグラスを取り出し、細胞が付着している面が封入剤に接するようにしてスライドグラスにのせる。
*ピンセットはDumont社のINOX No.5がお勧めです。

3. カバーグラスの上にキムワイプを乗せ、ごく軽く押す。はみ出した封入剤をキムワイプで吸い取ったら、ネイルポリッシュ(=マニキュア*)をカバーグラスの四辺に塗り、シールドする。
*100円ショップで売っている安物で十分です。

4. カバーグラスの上にMilliQ水(or Elix)を一滴のせて、キムワイプで軽く拭く(塩を取り除くため)。このとき、カバーグラスを押したり、ずらしたりしないように注意する。

5. 検鏡するまでアルミホイルをかぶせて遮光しておく。


方法2 :核染色してから封入する方法

1. 二次抗体の洗浄が終わったら、さらに細胞をTBS* でリンスする。
次に100 uLの0.2~1 ug / mL DAPI in TBS (DAPIの0.1 mg / mL in MilliQのストック溶液を使用直前にTBSで100~500倍希釈する) をカバーグラスにのせ、遮光しながら3分間静置。

*ここではPBSではなく必ずTBS(20mM Tris-HCl pH 7.5 150mM NaCl)を使用すること。

2. DAPI溶液を取り除き、0.1 % Triton X-100 in TBSを加え、5分間静置。その後、Tritonを含まないTBSで1回リンスする。

3. 20 mM Tris-HCl(pH 8.0~8.5) : グリセロール = 1:9で混合したものをスライドグラスに1,2滴のせ、そこへカバーグラスをかぶせ(細胞が乗っている面を下にする)、マニキュアでカバーグラスの四辺をシールドする。

4. カバーグラスの上にMilliQ水(or Elix)を一滴のせて、キムワイプで軽く拭く。(カバーグラス表面の塩を取り除くため)

5. 検鏡するまでアルミホイルをかぶせて遮光しておく。


このグリセロール溶液の封入剤は市販の封入剤に比べて蛍光色素が退色しやすいという欠点*がありますが、バックグラウンドがかなり低いという長所があります。また、市販の封入剤に比べて非常に安価です。自作の封入剤に抗光漂白作用のある化合物を添加するプロトコールもありますが、一般的に毒性の高い化合物であることが多いのであまりお薦めはしません。もちろん、グリセロール溶液の代わりに、蛍光色素を含まない市販の封入剤を使用してもよいでしょう。

なお、このグリセロールの封入剤は特にDAPIが退色しやすいのですが、核の撮影は露光時間が短いので実質的には支障になりません。また、Alexa-488など退色しにくい色素を結合した二次抗体を使えば、比較的長めの露光にも対応できます。


次回はAppendixとして、免染で使える一次抗体を効率良く探す方法を紹介したいと思います。
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前回からの続きです。

③ブロッキング

1-2 % *BSA in PBS(-)をカバーグラス上に100-120uLのせ、カバーグラス全体に行き渡るように、チップで延ばす。その後、室温下で60分間静置する。

*BSA濃度はまず1.5%で試してみるとよい。

<Appendix>
・BSA(ウシ血清アルブミン)の代わりにウシやウマなどの血清を5~10% in PBS(-)で使うことができます。ただし、一次抗体反応で使用する一次抗体の産生生物種に由来する血清は使用できない(例えば、一次抗体がウサギ由来の場合、ウサギ血清は使用できない)ので注意してください。これは、血清に含まれる抗体に二次抗体が反応してしまうためです。

・二次抗体の由来生物種の血清を使うと、二次抗体の非特異的な結合を減らすことができるとされています。ただし、個人的な経験ではBSAとの差は感じられませんでした。

・1-2 % BSA in PBS(-)を調整する際、BSAは完全に溶解せずに小さな顆粒として残る場合があるので、0.45 um以上のフィルターでろ過すると良いでしょう(ただし、このろ過はオプションであり、省略可。バックグランドが高いときに試すとよい)。また、1-2 % BSA in PBS(-)はまとめて調整し、マイクロチューブに分注して、-20℃で凍結保存しておきます。

④一次抗体反応

・目的のタンパク質に対する抗体をブロッキングで使った溶液(例えば、1-2 % BSA in PBS(-))で希釈する。
・抗体の希釈率はウェスタンブロットで使うときの10分の1倍を目安とするが、最適化すべきである。(ウェスタンブロットで1000倍希釈ならば、免染では100倍希釈が目安)ただし、ウェスタンブロットで使用できる抗体が免染に使用できるとは限らないので注意する。使用する抗体が免染に使えるかどうかは事前に添付文書などで確認しておくこと。また、その抗体が本当に免染に使えるのかどうかも抗体の添付文書等で確認しておく。ウェスタンブロットはOKでも、免染に使えない抗体は少なくない。

・二重染色(2種類以上のタンパク質を同時に抗体で標識)するときは、抗体を混ぜて使ってもよいが、抗体の由来生物種が異なっている必要がある。

1. ブロッキングに使用した溶液で一次抗体を希釈し、その希釈溶液をカバーグラス上にアプライする。室温で60分間静置。
(抗体の反応時間は40~120分で最適化する。また、4 ℃でオーバーナイトも可)

2. PBS(-)で1回リンスしたら、その後PBS(-)を1mL加え、10分間静置→PBS(-)交換を3回繰り返す。


<一次抗体の節約術>
高価な抗体を節約するには、③-1で使用する抗体希釈液の量を最低限まで減らします。
管理人は表面張力を利用して、抗体希釈液をカバーグラスの上だけにアプライしていました。この際、18x18mmのカバーグラスならば、抗体希釈液の量を80-100uL程度にします。ピペットのチップを使ってカバーグラス全域に抗体希釈液を広げるのがポイントですが、チップでカバーグラスを引っかかないように注意します(細胞が剥がれるため)。

⑤二次抗体
1. ブロッキングに使用した溶液で二次抗体を希釈する。
希釈率はメーカーの説明書に準拠する*。また、二重染色のために、一次抗体を二種類使用した場合は、二次抗体を2種類混ぜて使ってよい。この場合、当然ながら、二次抗体の蛍光色素は異なっている必要がある(蛍光の波長が十分に異なっている必要がある)。


二次抗体希釈液の量は、一次抗体の希釈液と同じでよい、

2. 二次抗体の希釈液をアプライしたら、アルミホイルで遮光して室温で30分間静置。長く置きすぎるとバックグラウンドが高くなるので注意。

3. PBS(-)で1回リンスしたら、その後PBS(-)を1mL加え、10分間静置→PBS(-)交換を3回繰り返す。


<ポイント>
バックグラウンドが高い場合は、メーカーが推奨する希釈率よりもさらに希釈してみましょう。一般的に、二次抗体をできるだけたくさん使わせたいというメーカーの意図があるためか、推奨希釈率よりもさらに希釈しても十分な場合が多いです。また、2の静置時間を短くするのも手です。

次回は、核の染色と封入について説明し、免染のプロトコールを完結させたいと思います。
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