2012年07月

以前のエントリーでは、培養細胞の免疫蛍光染色を行うにあたり必要な知識と準備について解説しました。
そこで、今回からのエントリーでは、いよいよ実際に細胞を免染するためのプロトコールを説明します。

培養細胞の免疫蛍光染色プロトコール
*このプロトコールに記載された試薬の使用量は、35mmディッシュor 6ウェル・プレート内で18x18 mmのカバーグラス上に培養した細胞を染色する場合のものです

プロトコールの大まかな流れ
①細胞の固定
②細胞膜透過性の亢進(界面活性剤による処理)
③ブロッキング
④一次抗体反応
⑤二次抗体反応
⑥細胞核の染色と封入

①細胞の固定
<ホルムアルデヒド固定> (35mmディッシュ・スケール)
注)免染する細胞の準備については、以前のエントリーを参照してください。

 1. 培地をアスピレーターかピペットマンで取り除いたら、37℃のPBS(-)を1mL加え、ディッシュをかるく揺すってから、アスピレーターでPBS(-)を吸引する。このPBS(-)によるすすぎをもう一度行う。(以降、この操作をリンスと表記する)

2. カバーグラスが浸るまで3〜4 %* paraformaldehyde in PBS(-)を加え、室温*で10~20分間静置する。(paraformaldehyde in PBS(-)を節約したい場合は、カバーグラスの上だけにアプライする。この場合は、150uL程度の固定液を使用する。スライドガラス外に固定液がはみ出ないようにするのがポイント。また、ホルムアルデヒドは有害物質であるため、できるだけこのような方法で使用量を抑えることが望ましい)

*プロトコールによっては、4℃で固定する場合もある。

3. paraformaldehyde in PBS(-)をアスピレーターorピペッターで取り除いたら、室温のPBS(-)でまず1回リンスし、その後PBS(-)を交換する。5分間静置したら、再度PBS(-)を交換し5分静置。以降、②へ続く。


<メタノール固定>(35mmディッシュ・スケール)
予め、100%MeOHを50mLチューブに分注し、-30℃のフリーザーで十分に冷やしておく
(できるだけ、ドアの開閉頻度が低いフリーザーで冷やしておくこと)

1. 培地をアスピレーターかピペットマンで取り除いたら、37℃のPBS(-)でディッシュを2回以上リンスする。PBS(-)の量は1mL程度。


2. 1のPBS(-) を取り除いたら、冷やしておいた100 %MeOH*を1mL加え、即座に-30 〜 -20 ℃のフリーザーにディッシュを移し、1~5 分間静置する。(細胞骨格を染色する時は3分が目安)

*微小管を染色する時はEGTAを1 mMになるように添加するとよい(調整法は、後のエントリーで紹介予定)

3. MeOHを取り除いたら素早く4℃の PBS(-) with 0.1% Triton X-100を1mL加えて5分静置(室温下)。その後、PBS(-) with 0.1% Triton X-100を交換して5分間静置。最後に Triton X-100を含まない普通のPBS(-)に交換し、5分間静置。

*3でPBS(-) with 0.1% Triton X-100を用いる理由
→メタノールは疎水性なので、Tritonを加えていないPBS(-)を使うと、ディッシュにわずかに残ったメタノールがPBS(-)を弾いてしまい、カバーグラスがうまくPBS(-)に浸らないため。

ポイント:どちらの固定法でも、細胞に固定液を作用させた以降は免染が完了するまで(封入するまで)細胞は絶対に乾燥させてはならない。


②細胞膜透過性の亢進


細胞を固定したら、次に、一次抗体が細胞内に入れるように界面活性剤で細胞膜を変性させます。なお、メタノール固定の場合はこの過程をスキップし、③(次回のエントリー)へ進んでください。

1. ①のPBS(-)を取り除いたら、PBS(-) with 0.1~0.5 % Triton X-100を1mL加え5~15分間静置する。
静置時間とTriton X-100の濃度は細胞種や目的のタンパク質の局在などで異なるので最適化する。
→Triton X-100の濃度はひとまず0.25 % PBS(-)とし、静置時間は10分で試してみる。

2. PBS(-) with Triton X-100を取り除き、PBS(-)を1mL加え、5分間静置→PBS(-)交換を3回繰り返す。

プロトコールの続きは次回のエントリーで説明します。
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カバーグラスのポリ−L−リジン・コーティング

前回のエントリーからしばらく経ってしまいましたが、細胞の免染プロトコールとして、
今回はカバーグラスのポリ−L−リジン・コーティングについて説明します。
この操作は接着の弱い細胞を免染する際に必要となります。

<用意するもの>
滅菌した18 mm×18 mmカバーグラス(滅菌法:耐熱ガラス製のペトリ皿にカバーグラスを入れてフタをした後、アルミホイルをかぶせてオートクレーブで滅菌。乾燥機で乾かしてから使用。ペトリ皿が無い場合は、使い古しの50mLチューブにカバーグラスをいれ、フタをゆるく閉める。そして、チューブ全体をアルミホイルで包んで、オートクレーブする。)

・0.01% ポリ−L−リジン (シグマ・アルドリッチ : P4832)  他社の同等品でも可

・PBS(-) 普段の細胞培養に用いるPBS(-)をそのまま使えばよい


(以下の作業は全て、クリーンベンチ内で行う)
1. 滅菌済カバーグラスをピンセット*で、35mmディッシュ内に置く。
(35mmディッシュの代わりに6ウェルプレートでも可)

*ピンセットは適宜、バーナーで炙って滅菌状態を維持すること。

2. 滅菌MilliQ水で10倍希釈したポリ−L−リジンをカバーグラスに130-150 uL程度のせ、ピペットのチップを使ってカバーグラス全体に広げる。その後、ディッシュにフタをして常温で20-30分間静置する。
(ポリ−L−リジンの希釈液は用事調整ではなく、作り置きしてもよい。一度に数mL調整し、15mLチューブなどに入れて冷蔵庫で保存する。10日間程度なら問題なく使用できる。)

3. アスピレーターでポリ−L−リジンの希釈液を吸い取る。
4. PBS(-)で3,4回リンスする。
5. 細胞を播種する。

このプロトコールでは、0.01%ポリ−L−リジンを10倍希釈して使用しています。希釈しないプロトコールもありますが、希釈した場合でも多くの細胞は問題なく接着します。また、ポリ−L−リジンは細胞毒性があるため、まずは希釈して使ってみることをおすすめします。

カバーグラスは、ポリ−L−リジンでコーティングした後、滅菌MilliQ水で十分にリンスし、乾燥させてから保存することもできます。ただし、上記のように用事調整しても、2の待ち時間に細胞の継代などをすることで、時間を無駄にせずにコーティングすることができます。保存中のコンタミリスクなどを考えれば、用事調整することをおすすめします。
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