以前のエントリーでは、NatureやScienceクラスのインパクトを誇りながら、なおかつオープンアクセスという目標を掲げた生命科学分野の新ジャーナル「eLife」の創刊決定についてお伝えしました。HHMIやWellcome Trustなど世界的な生命科学研究助成機関の支援によって創刊されるこの新ジャーナルですが、ここへきて創刊に向けた動きが活発化してきましたので、新たな情報を紹介したいと思います。なお、当初は今夏に創刊される予定でしたが、半年ほど延びて冬頃になる模様です。
・ジャーナルの体制
eLIFEでは、ジャーナルの方針決定などに関わるSenior editiorsと呼ばれる21名の研究者からなる組織の下に、175名の Board of reviewing editorsが設置され、互いに協力しながら論文の査読にあたる体制が取られています。どちらの委員会も、生命科学の全分野から極めて著名な研究者が選ばれています。
日本からは、senior editorとして東大の谷口維正 教授が選ばれており、 Board of reviewing editorsには、岡野栄之 (慶応大学教授)坂口志文(大阪大学教授)水島昇(東京医科歯科大学教授)の3名が選ばれています。(日本人研究者の割合が3/175→1.7%というのはなんとも寂しいものですが...)
この日本からのメンバーを見てもわかるように、eLIFEの Board of reviewing editorsには世界中から多くのビッグネーム研究者が参加しています。トップジャーナルのeditorial boardと比べても遜色ないレベルであり、トップジャーナルになるというeLifeの本気度がここにも現れています。
・レビュープロセス
気になるピアレビューのプロセスですが、現在までの情報をまとめると以下の通りです。
投稿された論文はまず、senior editorが評価を行い、査読にまわすか否かを判定します。次に、査読が決定した論文に対してsenior editorがBoard of reviewing editorsの中から1名を主査として指名します。指名されたreviewing editorは外部(Board of reviewing editors以外)から1-2名の研究者を選び、査読チームを結成して論文の査読にあたります。
次に、査読チーム内でコミュニケーションをとりながら、論文のリバイズが必要か判定します。リバイズにあたっては、本質的な点にのみ焦点を絞った修正・加筆等を著者に要求するとしています(レビュープロセスを迅速化するため、論文の論点に直接関与しない追加実験などは極力要求しない方針で、PLoS ONE的な迅速性を志向しています)。
リバイズされた論文を主査がチェック(この時は外部研究者は関わらない)し、問題ないことを確認したら、アクセプトが決定、めでたく掲載となるそうです。
論文の受け入れからアクセプトの決定までの全ての過程が著名研究者によってなされることは、特筆すべき点と言えます。
・PLoS的な機能
eLIFEではPLoSのように、コメント投稿機能や論文のアクセス解析ツールが提供され、インタラクティブな掲載システムを実装する予定になっています。
・掲載は無料
オープンアクセス(OA)・ジャーナルは購読料収入の代わりに、論文著者から掲載料を徴収することで運営されています。しかし、eLifeはHHMIなどから経済的な援助があるために、当面は無料で論文を掲載することが決定しています。平均的なOAジャーナルの掲載料はおよそ900ドル、PLoS Oneは少し高くて1,350ドルですから、eLIFEが無料というのは、研究者にとって魅力的であり、より多くの投稿を促す環境が整えられています。
新ジャーナルの立ち上げに際しては、とにかく論文が集まらなければ話になりませんし、論文のクオリティーを高めるためにも多くの投稿が必要ですから、これは賢いやり方と言えます。
遂にその全貌が明らかになりつつあるeLifeですが、彼らの掲げる目標(トップクラスのインパクトを誇るOAジャーナル)をどこまで実現できるのか興味深いところです。また、この研究者にとってフレンドリーな論文出版プロセスが今後の論文出版におけるロールモデルになることを期待したいものです。