2012年04月



トムソン・ロイターによる毎年恒例の最多引用論文と研究者の発表があったので、少し紹介したいと思います。

ホットペーパー(高頻度引用文献)数の多い研究者Top10

1位 Eric S. Lander Broad Institute of MIT and Harvard  遺伝学
2位 Salim Yusuf McMaster University  疫学/循環器
3位 Michael R. Stratton Wellcome Trust Sanger Institute  ガン遺伝学
4位 P. Andrew Futreal Wellcome Trust Sanger Institute  ガン遺伝学
5位 Kazuo Shinozaki RIKEN Plant Science Center 植物学
6位 Peter J. Campbell Wellcome Trust Sanger Institute  ガン遺伝学
7位 Douglas G. Altman University of Oxford 医療統計学
8位 Albert Hofman Erasmus University 疫学
9位 Francis S. Collins National Institutes of Health 遺伝学
10位 Yongye Liang Stanford University 化学/材料学
10位 Richard K. Wilson Washington University    遺伝学
10位 Goncalo Abecasis University of Michigan   生物統計学
10位 Panos Deloukas Wellcome Trust Sanger Institute  遺伝学
10位 Hui-Ming Cheng Shenyang National Laboratory  材料学
10位 Frederik C. Krebs Technical University of Denmark  材料学/エネルギー

データ元

こうしてみると、ゲノム屋さんがとても多い印象ですね(7人or8人?)。注目すべきは研究者の所属機関で、Wellcome Trustのサンガー研究所から4人も選ばれています。これは、疾患関連のゲノミクスから得られるデータに対する需要の多さと、それにフォーカスしたサンガー研究所のストラテジーの適正さを示す結果と言えるでしょう。

シークエンシング事業というものは装置産業であり、基本的にやることは単純ですから、まずはたくさんゲノムを読むことが必要ですが、それだけでなく、ストラテジー(何のゲノムを読み、何を明らかにするのか)が非常に重要になってきます(いくら、最新鋭のシーケンサーを大量に保有していても、ストラテジーがダメならば、有用なデータは出てこないわけですから)。今回の結果を見る限り、サンガー研究所はその点において非常に成功しており、生物医学上の重要なテーマを見出す力と研究者のニーズを把握する力が抜きん出ていることを物語っています。

世界には多くのゲノミクス施設がありますが、差別化を図るということについて、サンガー研究所は非常に自覚的です。サンガー研究所のウェブサイトのトップにはMaking a differenceという項目があり、そこではサンガー研究所が唯一無二のシークエンシング・センターであるための考え方が示されています。気になる方はぜひチェックしてみてください。

また、サンガー研究所はヒトのゲノミクスだけでなく、途上国で問題になっている感染症の病原体ゲノム解読にも非常に力を入れています。マラリアなどのメジャーな病原体に加え、いわゆるneglected diseasesとして分類されるマイナーなものまで幅広く取り組んでおり、このような人類全体に対する貢献を意識した姿勢には頭の下がる思いがします。
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Lablogue管理人 Okabe
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natureprecedings.png


随分と急な話ですが、4月3日をもってNature Publishing Group(NPG)が運営する生命科学と化学に特化したプレプリントサーバ、Nature Precedingsが投稿の受付を停止することが発表されました。

NPGのプレスリリースによると、
ウェブサービスの発展や研究者コミュニティの要望の変化により、サービスを開始した当初のモデルではこれ以上運営することができなくなったとあります。

2007年6月にスタートしたNature Precedingsは、生命科学と化学に特化した(物理学は既にarXivがあったため除外)プレプリントサーバとして、論文原稿やポスター、プレゼンテーションなどを投稿、共有する場を提供してきました。

私の記憶が間違いでなければ、当時、PLoS ONEが前年にサービスを開始するなど、よりオープンで迅速に研究成果を発表する動きが広まりつつあり、Nature Precedingsもその波に乗る形でスタートしたように思います。Wellcome TrustやEBIなどからのサポート(金銭的なものだったかは不明)があったものの、商業出版社であるNPGが儲かりそうにないサービスを始めることにかなり驚いた記憶があります。

今回の決定に関する詳細な理由が明らかにされることはないでしょうが、他の類似サービスが研究機関やNPOにより運営されていることを考えると、商業出版社がプレプリントサーバを運営することはやはり難しかったのかもしれません。
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