Faculty of 1000(F1000)という論文のレーティングサービスがあるのですが、そのF1000がOPEN SCIENCE, OPEN DATA, OPEN PEER REVIEWというスローガンを掲げて、オープンアクセス誌「F1000 Research」の創刊に乗り出しました。対象分野は生物学と医学で、今年後半に創刊される予定です。
F1000 Researchの主な特徴は以下の通り。
・迅速な出版プロセス
・査読は論文の掲載後に実施(post-publication peer review)
・論文の公開後に新規データを追加するなどの、論文のアップデートが可能
・ネガティブなデータや思考実験に基づく論文など、従来ではリジェクトされてきた論文も掲載対象になる。
特に目を引くのが、査読を論文の掲載後に行うというpost-publication peer reviewでしょう。これにより、査読にかかる時間を節約して、迅速に論文を公開し、情報を素早く共有することが可能になります。(すぐに論文を公開できる点は、物理学の世界で有名なプレプリントサーバArXivと少し似ていますが、ArXivはあくまでプレプリントサーバであり、F1000 Researchのように査読が無い点が異なります)
査読は論文の掲載後に"公開査読"として行われ、レフェリーのコメントやそれに対する著者のレスポンスを誰もが自由に閲覧できるそうです。これは、より公平な査読を可能にする点で評価できるでしょう。査読の可視化というわけです。
論文のアップデートに関しては、レフェリーから追加実験を求められた際に、そのデータを追加できるようにするための仕組みと考えられます。これにより、追加実験を待たずに、論文の掲載が可能になるのでしょう。
また、新規データによって論文の主張をさらに強固にするといったこともできると思われます。
ただ、引用する際には、論文のバージョンを明記しないと後から混乱が生じそうです。
このシステムがどこまで上手く機能するのか興味深いところです。
ネガティブ・データの基づく論文でも掲載可能であることに関しては、ネガデータしか出なかった研究プロジェクトを論文にできるという点で研究者の救いになるかもしれません。
上記のように、この新ジャーナルの方針はかなりラディカルですが、迅速な論文の掲載と査読の透明性に関しては、以前に紹介したオープンアクセス誌eLife*の方針と良く似ています。
こうした方針を持つジャーナルの創刊が続く背景には、研究者の中で既存の学術誌出版システムに対する不満があるのは間違い無いでしょう。
また、SNSが一般化した現在において、「インタラクティブな形での、迅速な情報共有」がついにジャーナル・パブリッシングにも及びつつあることの現れと捉えることもできると思います。