2012年02月

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Faculty of 1000(F1000)という論文のレーティングサービスがあるのですが、そのF1000がOPEN SCIENCE, OPEN DATA, OPEN PEER REVIEWというスローガンを掲げて、オープンアクセス誌「F1000 Research」の創刊に乗り出しました。対象分野は生物学と医学で、今年後半に創刊される予定です。

F1000 Researchの主な特徴は以下の通り。

・迅速な出版プロセス
・査読は論文の掲載後に実施(post-publication peer review)
・論文の公開後に新規データを追加するなどの、論文のアップデートが可能
・ネガティブなデータや思考実験に基づく論文など、従来ではリジェクトされてきた論文も掲載対象になる。


特に目を引くのが、査読を論文の掲載後に行うというpost-publication peer reviewでしょう。これにより、査読にかかる時間を節約して、迅速に論文を公開し、情報を素早く共有することが可能になります。(すぐに論文を公開できる点は、物理学の世界で有名なプレプリントサーバArXivと少し似ていますが、ArXivはあくまでプレプリントサーバであり、F1000 Researchのように査読が無い点が異なります)

査読は論文の掲載後に"公開査読"として行われ、レフェリーのコメントやそれに対する著者のレスポンスを誰もが自由に閲覧できるそうです。これは、より公平な査読を可能にする点で評価できるでしょう。査読の可視化というわけです。

論文のアップデートに関しては、レフェリーから追加実験を求められた際に、そのデータを追加できるようにするための仕組みと考えられます。これにより、追加実験を待たずに、論文の掲載が可能になるのでしょう。
また、新規データによって論文の主張をさらに強固にするといったこともできると思われます。
ただ、引用する際には、論文のバージョンを明記しないと後から混乱が生じそうです。
このシステムがどこまで上手く機能するのか興味深いところです。

ネガティブ・データの基づく論文でも掲載可能であることに関しては、ネガデータしか出なかった研究プロジェクトを論文にできるという点で研究者の救いになるかもしれません。

上記のように、この新ジャーナルの方針はかなりラディカルですが、迅速な論文の掲載と査読の透明性に関しては、以前に紹介したオープンアクセス誌eLife*の方針と良く似ています。
こうした方針を持つジャーナルの創刊が続く背景には、研究者の中で既存の学術誌出版システムに対する不満があるのは間違い無いでしょう。
また、SNSが一般化した現在において、「インタラクティブな形での、迅速な情報共有」がついにジャーナル・パブリッシングにも及びつつあることの現れと捉えることもできると思います。
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今回のエントリーでは、前回に引き続き、FuGENE6を使ったトランスフェクションのプロトコールについて説明していきます。このページから読まれる方もいらっしゃるかもしれませんが、FuGENE6は、取り扱いに注意を要するため、前回のエントリーも参照することをお勧めします。

FuGENE6によるトランスフェクション・プロトコール

ここでは例として、35mmディッシュで培養した細胞へトランスフェクションする場合のプロトコールを説明します。他のサイズのディッシュを使用する場合は、適宜スケールアップしてください。こちらのFuGENE6の取扱説明書に各サイズのディッシュでの最適なベクター量やFuGENE6の使用量が記述されていますので、参考にすると良いでしょう。

用意するもの
・Opti-MEM I培地(血清や抗生物質は入れないこと)
・TE or滅菌MilliQに溶解したプラスミドベクター (0.1~2 ug /uL、O.D. 260/O.D.280 = 1.8~1.9)


<トランスフェクションの前日>
35mmディッシュに1-3x10^5個程度の細胞を播く。培地量は2 mLが目安。

このとき、抗生物質を含まない培地(血清は入れる)を用いた方が良い(抗生物質がトランスフェクション効率を低下させる可能性があるため)。
また、生細胞を蛍光顕微鏡で観察する場合は、抗生物質だけでなくフェノール・レッドを含まない培地を使用する。(フェノール・レッドが蛍光を発するため)

<トランスフェクションの当日>

FuGENE6はFuGENE6 (uL) : プラスミドベクター(ug) = 3:1または6:1の比率で混同して使用する。
・使用例 (35mmディッシュ一枚あたり)
FuGENE6 (uL) : DNA(ug) = 3:1の時  

Opti-MEM I    97 uL
FuGENE6    3 uL    
プラスミドベクター 1 ug分   0.5~10 uL*
(*プラスミドベクターの濃度が0.1~2 ug /uLのとき)


手順 (FuGENE6:プラスミドベクター = 3:1の場合)
1. FuGENE6を冷蔵庫から出し、室温下で20分ほど放置する。その後、インバートor Vortexに1秒かけ、混ぜる。

2. 血清及び抗生物質を添加していないOpti-MEM Iをマイクロチューブに97uL入れる。

3. 3 uLのFuGENE6をOpti-MEM Iの入ったマイクロチューブに加える。このとき、FuGENE6をマイクロチューブの壁面につけないで、培地に直接加えること

4. 3のチューブをVortexに1秒かけたら、室温で5分放置する。

5. プラスミドベクターを1 ug加え、Vortexに1秒かける。その後、15~30分(最長で45分)室温下で放置する。

6. 細胞を培養しているディッシュに、5で調整したFuGENE6+プラスミドベクターを加える。
この時、FuGENE6+プラスミドベクターをディッシュ中の一箇所に集中して添加するのではなく、まんべんなく滴下する方が均一に広がりやすい。その後、ディッシュを軽くゆすって、さらに拡散させる。

7. 細胞をインキュベーターに戻す。

トランスフェクション効率をより高めたい場合は、無血清培地中の細胞にFuGENE6+プラスミドベクターを加える。この場合、ステップ6の前に、細胞の培地を無血清のものへ交換しておき、FuGENE6+プラスミドベクターを培地に添加し3~8 時間経過したら、血清入りの培地に交換する。
ただし、安定発現株をとりたい時は、トランスフェクション後、継代するまで培地交換をしない方が良いので、この方法は使用せず、血清入培地のままでトランスフェクションすること。

トランスフェクション条件の最適化

・細胞の播種量やコンフルーエントの度合い、播種してからトランスフェクションするまでの時間などを変えてみる。

・FuGENE6 (uL) : プラスミドベクター (ug) の比率を変えてみる(通常は3:1 or 6:1が推奨されている)。
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