2012年01月

今回のエントリーでは、接着細胞へのトランスフェクションのためのプロトコールを紹介します。トランスフェクションには様々な方法がありますが、その中でも市販のトランスフェクション試薬を利用する方法が、手軽で導入効率も比較的良いために、広く用いられています。現在、各社から多様なトランスフェクション試薬が販売されていますが、ここではRoche Applied SciencesのFuGENE6を用いた方法を紹介します。

FuGENE6を用いたトランスフェクション その1

FuGENE6の特徴と取り扱い方
まずトランスフェクションを始める前に、FuGENE6の特徴と取り扱い方について、しっかりと頭にいれておきましょう。FuGENE6を正しく取り扱うことは重要なポイントで、誤った方法で扱ってしまうとトランスフェクション効率を大きく損ねる可能性があります。

FuGENE6の特徴
・血清を含む培地中の細胞にも遺伝子を導入できる。→トランスフェクションの前に無血清培地へ交換、その後血清入りの培地へ再度交換という手間が不要。
・細胞毒性が低い。→トランスフェクション後に培地交換をする必要がない(=すぐ帰れる。これは意外と重要、笑)

トランスフェクション試薬というものは多かれ少なかれ、細胞に対してダメージを与えるものですが、FuGENE6は細胞毒性がかなり低いので、トランスフェクション試薬によるダメージが少ない”健康的な”細胞を観察することができます。そのため、細胞の生理機能を解析したり、安定発現株をとったりするのに適しています。ただし、導入効率はそれほど高くないため、高い導入効率が必要な場合は、他のトランスフェクション試薬も検討すると良いでしょう。

FuGENE6の取扱い方
・保存は2~8 ℃ → 培養室の冷蔵庫で保存
・使用する前には、しばらく(20分程度)室温で放置する。(FuGENE6を室温程度まで温めるため)
・FuGENE6はプラスチック容器に触れると、徐々に失活していくので、マイクロチューブ等との接触は最小限に抑える。当然、マイクロチューブに分注して保存などしてはいけない。

ここまで、FuGENE6の特徴と取り扱いについて説明してきましたが、プロトコールまで説明するとかなり長くなるため、続きは次回のエントリーとします。
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前回のエントリーでは、中高生の研究論文を専門に掲載するジャーナル、Journal of Emerging Investigatorsの創刊をお伝えしましが、タイムリーなことにグーグル主催の科学コンテスト、Google Science Fair 2012のエントリーが始まったので、ここで紹介したいと思います。

今年で2回目となるこのGoogle Science Fair(以下、GSF)は、13-18歳であれば誰でも参加できる科学コンテストで、第1回となった昨年は91カ国から1万人を超える学生がエントリーしました。
このコンテストにはナショナル・ジオグラフィックやLEGO, サイエンティフィック・アメリカンなどのスポンサーがついており、優秀者にはスポンサーから賞金や様々な特典が与えられます。

GSFの特徴
1. ウェブをフル活用
この科学コンテストはグーグルが主催するだけあって、エントリーからプレゼン、選考までがウェブをフル活用して行われるのが特徴です。例えば、エントリーの際に、プレゼンの概要を動画かスライドで提出する必要があり、前者はYoutubeに2分間の動画をアップ、後者はGoogleドキュメントのプレゼンテーションアプリを使ってスライドを作成、提出しなければなりません。(これについては、自社サービスのユーザーを増やそうとするしたたかさを感じますね)

2.豊富な支援コンテンツ
GSFのウェブサイトで特に目をひくのが、豊富な支援コンテンツ群です。コンテストに参加する学生は勿論、教師用の支援コンテンツまで豊富に用意されています。
こうした支援コンテンツの充実ぶりは、数々のウェブサービスを手がけてきたグーグルならではと言えるでしょう。

3.厳しい規定
GSFでは実験に関する細かなガイドラインが設けられています。
特に生物関係のマテリアルの扱いについては厳しく、動物実験は原則禁止ですし、動物の採取や動物への介入・刺激なども禁止されています。ここでの動物とは脊椎動物だけでなく、あらゆる動物が対象ですから、例えば昆虫を採取して観察することもできません。つまり、遠くから観察することだけが許されています。
こうした厳格な規定は、欧米での動物実験に関する厳しいガイドラインや動物愛護の風潮などを考慮するとやむ得ないかもしれませんが、全ての動物を対象とする点については、やや過剰であり、可能性を制限しているようにも感じられます。

ツールとしてのGSF
GSFには単に世界規模の科学コンテストというだけでなく、他にも重要な機能があることを見逃してはなりません。それは、中高生が研究の進め方を学ぶツールとしての機能です。
GSFウェブサイトの以下のページを見ると、おわかりになるかと思いますが、様々な研究支援コンテンツやツールが提供されており、
http://www.google.com/intl/ja/events/sciencefair/requirements.html
http://www.google.com/intl/ja/events/sciencefair/site.html
http://www.google.com/intl/ja/events/sciencefair/judging.html#process

科学研究におけるプロセス、つまり、疑問から始まり、仮説、実験、データの解釈、そして結論へと至るプロセスを実践しながら学ぶことができます。
加えて、丁寧かつ明解な説明と使いやすさを備えており、誰でも容易に活用できる点も評価できます。こうした有用なツールが、GSF以外にもたくさん出てくることを期待したいものです。
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現在、ハーヴァード大学医学部の学生たちによって、ジュニア科学者(中高生)の科学論文を掲載するオープンアクセス・ジャーナルが立ち上げられようとしています。このジャーナルはJournal of Emerging Investigators(以下、JEI)といい、おそらく世界初の中高生専用の査読誌になる予定です(現在投稿を募集中)。

JEIは 中高生が研究の成果を発表できる場を提供するために創られたジャーナルで、
中高生は論文を発表することにより、

・査読を通じてフィードバックが得られる
・論文の発表を通じて、科学者や同好の学生とのコネクションを作れる
・大学の推薦書に記載できる


といった恩恵を受けられるとしています。

また、こうした研究発表の場をつくることで中高生の研究へのモチベーションが高まり、その結果、学生が協力して研究に取組む機会が増えることをJEIの運営チームは期待しているとのことです。

JEIは中高生が研究を行い、それを発表する行為そのものを奨励しており、研究のレベルについては最優先事項ではないとしています。とはいえ、
少し前に茨城の高校生が新しい化学反応を発見し、専門誌に論文が載ったことが話題になりましたし、大手半導体メーカーIntel社がスポンサーを務める科学コンテスト、Intel Science Talent Searchでは、プロと遜色ないレベルの研究(の構想)が毎年発表されていますから、JEIについても質の高い論文が掲載される可能性はあるでしょう。
論文は世界中から投稿できるようなので、日本からの論文も期待したいものです。日本には多くのスーパーサイエンスハイスクールがあるのですから。

こうしたジャーナルの創刊は、中高生が研究成果を広める有効なツールを手に入れたことを意味します。それによって、アカデミアや企業の研究者との関係が生まれ、研究を発展させられる機会を得るかもしれません。また、重要な発見をした際に、容易にクレジットを認知させられるメリットもあるでしょう。将来、JEIの論文がプロの研究者から引用される日がくるかも知れません。
さらに、JEIの創刊により、中高生の研究レベルの向上だけでなく、理科教育に関わる教師の質向上も期待できそうです。というのも、JEIに論文を投稿するには教師かそれに準ずる指導者の存在が義務付けられているためです。実際のところ、教師がある程度は助力することになるでしょうから、研究の指導や論文の作成(補助)を通じて、教師のトレーニングになるはずです。

今後、どのような論文がこのJEIで発表されるのか、また、このジャーナルがどのような成長を遂げていくのか注目していきたいと思います。
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