2011年11月

培養細胞の凍結法にはいくつかの方法がありますが、今回のエントリーではセルバンカーを使用したプロトコールをご紹介します。


セルバンカーのメリット
・簡単。
・-80℃のディープフリーザーで長期保存しても、そこそこの細胞生存率が期待できる。
→自動供給式液体窒素保存容器が無い研究施設でも細胞を凍結保存できる。

デメリット
・DMSOと血清を使用した方法(次回のエントリーで紹介予定)に比べて、一般的にコストが高くなる。
→多量の細胞を凍結する場合にはあまり向かない。(リッチな研究室では問題ないかもしれませんが...)



セルバンカーを用いた細胞の凍結プロトコール

*ここでは、セルバンカー1を使用します。

1. 培地を取り除き、37℃に温めたPBS(-)で細胞を2,3回洗浄する。
基本的には、コンフルエントに近い状態(サブコンフルエント)の細胞を使用する。

2. トリプシン-EDTA溶液で細胞を剥離させる。(詳細なプロトコールはこちらを参照)
トリプシン-EDTA溶液で細胞を処理している間に、クライオチューブを用意し必要な情報を書き込んでおく。

3. 細胞の形状が丸くなり、ディッシュの底から大半の細胞が剥がれてきたら、血清入り培地を加えてトリプシンの反応を止め、ピペッティングにより細胞をバラバラにする。

4. 15 mLチューブに細胞を移し、1,000 rpmで5分間遠心する。

5. アスピレーターで上清を取り除いたら、細胞5x10^5~5x10^6個に対しセルバンカーを1 mLを加える。

6. ピペッティングで細胞とセルバンカーを混ぜ合わせたら、クライオチューブに移す。

7. -80 ℃のディープフリーザーで保存する。この時、ゆっくりと冷やした方が細胞にダメージが少ないので、液体窒素で凍結せずに、クライオチューブはそのままディープフリーザーに移すこと。
なお、クライオチューブをそのままディープフリーザーに入れるよりも、ラックごとキムタオルなどで包んでから、フリーザーに入れる方がゆっくりと温度が下がるので、より細胞に優しい。

ちなみに、凍結するときはゆっくりと凍結し、起こす時は素早く解凍するのが培養細胞の取り扱いの基本


次回のエントリーでは、血清とDMSOを用いたより安価な方法について紹介します。
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eLIFE創刊eLIFEは研究者の理想を体現した高IFジャーナルのモデルになれるのか

今年6月末、米のハワード・ヒューズ医学研究所(以下、HHMI)、英のウェルカム・トラスト、そして独のマックスプランク協会という世界を代表する研究助成機関の支援によって、生命科学を対象にしたオープンアクセス・ジャーナルの創刊が発表されました。
当初は、編集長の人選はおろかジャーナルの名前すら決まっていませんでしたが、来年(2012)夏の創刊に向けて、ここ2,3ヶ月で具体的な動きがいろいろとみられるようになって来ました。
そこで、今回のエントリーでは、「eLIFE」と名付けられたこの新しいジャーナルについて、現時点で判明している情報に基づきながら、eLIFEが目指すジャーナル・モデルについて紹介したいと思います。

1. eLIFE誕生の背景
非常に多くのジャーナル(学術誌)が存在している現在、論文を投稿しようとする研究者にとっては、どのジャーナルに投稿するか十分な選択肢が与えられているように見えます。このような状況下では、一見すると新しいジャーナルを創刊する必要など無いように思われます。にもかかわらず、世界でもトップクラスの研究助成機関の出資により、新しいジャーナルが創刊されるに至った背景には一体何があるのでしょうか?

eLIFEの基となるアイデアは、2010年にHHMIのJaneliaキャンパスで開かれたある会合から生まれてきました。その会合では、研究者コミュニティーの要望にもっと沿ったジャーナルが必要であるとの結論に達し(1)、そこからeLIFEのプロジェクトがスタートしました。
現行のジャーナル・パブリッシングに満足できないトップクラスの研究者達が、自らの手でより良いジャーナルを創ろうというわけです。
では、研究者達は現行のジャーナルにどのような不満を持っているのでしょうか?
eLIFE創刊に関連したプレスリリース(1,2,3)を読み解くと、その不満が見えてきます。

2. 現行のジャーナル・パブリッシングに対する研究者の不満

・投稿から掲載までに時間と労力がかかり過ぎる。
→不要な追加実験を査読者から求められるなどした結果、論文の発表が遅れる。
・ピアレビューの公平性や透明性が十分に確保されていない。
・エディターの論文評価能力が十分でない。
→多くの場合、エディターは投稿された論文をレビューに廻すかリジェクトするか決める権限を持つが、エディターの能力が十分でないと、論文の真の価値を理解できない場合がある。
・オープンアクセスの高インパクトジャーナルがほぼ無い。
→名の知れた高インパクトジャーナルはほとんどが商業誌(Nature、Science等)

3. eLIFEの特徴
eLIFEは研究者の現行ジャーナルに対する不満を解消し、より彼らの理想に近いジャーナルを目指しているため、その特徴の多くは2で挙げた内容の反対になっています。

・迅速かつ透明性のあるレビューシステムリバイズは基本的に1回のみで、原稿の修正や追加実験などは最小限に抑える。また透明性のために査読者のコメントを公開する
・エディターは現役のPIクラスの研究者が担当
・科学のみならず、社会に影響を与えるような重要でインパクトのある論文を掲載する
・論文はすべてオープンアクセス。また、CCライセンス(CC BY 3.0)の下で発表されるため、複製、頒布、展示が可能。



4. eLIFEが目指すもの
eLIFEが目指しているのは、研究者の理想を体現した高インパクトジャーナルであり、それは公正かつ迅速なレビューシステムを持ち、誰でも自由にアクセスできるというものです。また、eLIFEの根底にはエグゼクティブ・エディターであるMark Patterson氏の発言(3)" It's run for and by the research community "にもあるように、研究者による研究者のためのジャーナルという思想があリます。これは研究者達の要望により沿ったジャーナル・パブリッシングを展開する上で非常に重要と言えるでしょう。
このような高い理想を実現するのは容易なことではありませんが、eLIFEがそれを実現した際には、新しいロール・モデルとしてジャーナル・パブリッシングに大きな影響を与えるはずです。


*補足:CCライセンスについては、PLoS(Public Library of Science)、また、迅速なレビューシステムについては、PLoS Oneの影響を多分に受けていると言えるでしょう。
それもその筈で、eLIFEのエグゼクティブ・エディターであるMark Patterson氏はNature Publishing Groupを経てPLoSで活躍した経歴を持っています。
また、編集長には14代目PNAS編集長として同誌の改革を実行したUCバークレーの教授、Randy Schekman博士が起用されています。

Ref.1 http://www.wellcome.ac.uk/News/Media-office/Press-releases/2011/WTVM051897.htm
Ref.2 http://www.hhmi.org/news/schekman20110711.html
Ref.3 http://www.hhmi.org/news/patterson20111010.html
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