2011年04月

プライマーの探索と設計①では、実験の目的にあったプライマーを既存のものから探すための方法について述べました。常に既存のプライマーを利用できれば良いのですが、実際の研究ではそうはいかない場合も多々あります。その際には自分でプライマーを設計することになるわけですが、今回のエントリーではその方法について述べてみたいと思います。

プライマーの設計
現在では、多くの遺伝子解析ソフトにプライマーを設計する機能がついていますし、ウェブベースの設計ソフトも充実していますから、簡単にプライマーを設計することができます。
プライマー設計ソフトが弾き出した候補の中から選ぶことで、十分に間に合うことが多く、設計というよりは、選定に近いというのが昨今の状況でしょう。
とはいえ、設計ソフトを利用する際には、自分で各種パラメータを設定する必要がありますし、設計ソフトが提示した候補の中からより適切なプライマーを選択するためにも、プライマーの設計ルールを知っておくことは重要です。したがって、このセクションでは、まずプライマー設計におけるルールを概説し、その後、代表的なプライマー設計ソフトのひとつであるPrimer3の使い方を紹介したいと思います。

プライマー設計のルール

・ GC含有率は50~60 %程度が望ましい
・ 塩基数は18-30程度
・ それぞれのプライマーのTm値が近いこと
(できれば、5℃以内、最大でもTm値の差は10℃以内に抑えたい)
・ プライマーが高次構造を取らないこと
・ プライマーどうしがアニーリングしないこと
・ 目的の配列以外にアニーリングしないこと
・ cDNAをテンプレートにする場合は、forwardとreverseのそれぞれのプライマーが、できるだけ別々のエキソン由来の配列に結合するように設計する。
(発現解析などの際に、cDNAではなくゲノムDNAを増幅してしまったという可能性を排除するため)



Primer3を利用したプライマーの設計
ここまで、プライマーの設計の一般的なルールについて概説しましたが、それらのルールに則りプライマーを設計してくれる優秀なソフトがWeb上にはいくつも存在しています。ここではそれらの中から、Primer3というソフトを紹介したいと思います。

Primer3

http://frodo.wi.mit.edu/primer3/
もしくは
http://biotools.umassmed.edu/bioapps/primer3_www.cgi (ミラーサイト)

Primer3はMITのWhitehead Instituteで開発されたプライマー設計ソフトで、最も広く使用されているもののひとつです。基本的な使い方としては、増幅したい標的の配列をテキストデータかFASTA形式でペーストし、プライマーの長さやTm値、GC含有量などを指定してから、「Pick Primers」をクリックします。各パラメータの設定に関しては、上述したプライマー設計のルールを参考にしてください。

図解:Primer3の基本的な使い方
(ここでは、本家MITのサイトではなく、University of Massachusetts Medical Schoolのミラーサイトを使用していますが、使い方は同じです。)
画像をクリックすると拡大します。

4dbc610e.jpg
まず、テンプレートとなるDNAの配列をペーストします。次に、PCR産物の大きさを設定します。
c538e2a2.jpg
プライマーの長さやTm値の範囲、GC含有量などを設定し、Pick Primersをクリックします。
あとは、Primer3が返してきたいくつかの候補を互いに比較して、ベストと思われるプライマーのセットを選択します。

なお、ここで紹介した基本的な使い方では、最低限のパラメータしか変更していません。多くの実験では、これで十分かと思いますが、実験によっては、より多くのパラメータについて、細かく設定した方がベターな場合もあるでしょう。


プライマーへの制限酵素部位の付加

PCR産物のサブクローニング等を目的として、制限酵素部位をプライマーの5’末端に付加する場合には、一般的に制限酵素部位に加えて、余分な塩基を追加する必要があります。
これは、制限酵素がDNAを切断する際に、制限部位だけでなく、“足場”となる塩基を必要とするためです。

例えばBam HIの場合、効率良く切断するには、DNAの末端を

5’GGATCCNNNNNNN・・・・・3’
3’CCTAGGNNNNNNN・・・・・5’  
(青字はBam HIの制限部位)

ではなく、

5’NNNGGATCCNNNNNNN・・・・・3’
3’NNNCCTAGGNNNNNNN・・・・・5’ 
赤字NNNは任意の塩基で、“足場”として機能する

という構造にする必要があります。

足場として必要な塩基の数は、制限酵素ごとに異なりますが、多くの制限酵素は3塩基あれば十分とされています。(ref.1)
また、足場となる塩基の配列は、基本的には任意なのですが、G, Cが3塩基以上連続せず、なおかつ二次構造をとらないような配列がお勧めです。

なお、それぞれの制限酵素が足場として必要とする塩基数を知りたい場合は、New England BioLabs社のカタログ巻末にあるテクニカルリファレンスを参照してください。
(なお、NEB社のカタログには、末端からの塩基数にさらに4塩基を追加するように書かれていますが、この4塩基は必ずしも必要ではありません。また、こちらのウェブサイトも参考になるでしょう。http://catalog.takara-bio.co.jp/product/basic_info.asp?unitid=U100006082

Ref.1 Zimmerman K. et al BioTequniques 24, 582-584 (1998)


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タグ:PCR
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前回のエントリー">前回のエントリーでは、理化学研究所による被災された研究者の受け入れについてお知らせしましたが、理研以外にも多くの大学や研究所が受け入れを含む支援を表明しています。

どの研究機関がどのような支援策を行っているかについては、日本学術会議のウェブサイトに一覧表のPDFがアップされていますので、リンクを貼りつけておきます。

「被災された研究者・学生等の受入支援等に関する情報(2011.4.7現在)
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/wakateacademy/pdf/wakate2.pdf

情報は随時更新されていますので、学術会議のHP
http://www.scj.go.jp/index.htmlにアクセスし、下の方にある「トップ・ニュース」の項目から、最新版をダウンロードされることをお勧めします。
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Sunrise

このブログでも既に紹介したように、被災した研究者を対象とした論文等の学術情報へのアクセス開放が国立大学の図書館や大手学術誌出版社から発表されています。
被災した研究者への支援の輪は広がりつつあり、理化学研究所からは被災した学生や研究者の受け入れも発表されました。

http://www.riken.jp/r-world/topics/110323/index.html

今回の震災によって、研究続行が不可能となってしまった研究者の方々、特にポスドクや博士後期課程の院生など、なんとしても業績を出さなければならない方々にとっては、朗報ではないでしょうか。もちろん、全く同じ研究テーマで再開することは難しいと思われますが、それでも研究できる環境を提供することは重要でしょう。

一方で、被災地から容易に移住できない研究者のためには、その場所で研究を再開できるよう、地震で被害を受けたインフラを復興するための支援が必要になってきます。
もちろん、今後文科省などから支援策が発表されると思いますが、
大学や企業、あるいは研究室単位での支援も有るに越したことはありません。

義援金という形での支援は大変役に立ちますが、それだけでなく、
例えば、更新によって不要となった実験機器を寄付すれば有効な支援になるでしょう。
また、実験機器メーカー等は、デモに使用した機器の貸与や提供などによる支援が可能と考えられます。

もしこういった支援が実現し、実験機器が集まれば、それらを共通の実験施設に設置することで、当座はなんとか研究ができるようになるはずです。

被災した研究者に最も必要な支援策を考えられるのは、研究者しかいません。
今こそ、研究者が仲間を支え、それが日本の科学を支え、日本全体の復興に
つながるように行動すべき時ではないでしょうか。
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