2011年01月

前回のエントリーに引き続き、ここではPCRの反応系の調整法を解説していきます。

3. dNTPs

dNTPの濃度:各種dNTP (dATP, dGTP, dCTP,dTTP)の最終濃度はすべて0.2 mM

実際には、耐熱性DNAポリメラーゼに添付されているdNTPs Mixを使用する場合がほとんどでしょう。添付されているdNTPs Mixの濃度を確認し、最終濃度が0.2 mMになるように使用します。(ただし、メーカーによっては推奨濃度が異なる場合がありますので、その場合は、推奨に従ってください)


4. テンプレート (鋳型) DNA

・テンプレートDNAの量
テンプレートDNAの量は、テンプレートにするDNAのタイプによって異なります。
一般的には、ゲノムDNAは多め、プラスミドは少なめにします。
これは、ゲノムDNAでは、単位質量中に含まれる目的の配列(増幅の対象とする配列)の数が少なく、逆にプラスミドでは多いためです。


テンプレートDNA量の目安(50 uLの系)
プラスミド:0.01-1 ng (最終濃度 0.2-2 pg/uL)
ゲノムDNA: 50-250 ng (最終濃度 1-5 ng/uL)

テンプレートDNAの量は50 uLの系で最大500 ng (10 ng/uL) 程度で、多すぎると非特異的な増幅が起こりやすくなります。
テンプレートDNA量の条件検討に関しては、個人的な経験上、テンプレートDNAの量は増やすよりも、減らす方が上手く行く場合の方が多いように感じます。

・テンプレートDNAの精製
なんらかの酵素反応を行ったDNAをテンプレートとする場合は、その反応液からキャリーオーバーされた物質が反応に影響する場合があります。そのため、必要に応じてフェノールクロロホルム抽出 + エタノール沈殿を行います。

・TEバッファーに溶解したDNAをテンプレートとする場合
TE(10 mM Tris-HCl, 1 mM EDTA)に溶解したDNAをテンプレートとするときは、鋳型となるDNA溶液の量を反応系体積の1/10以下にします。(TE中のEDTAがマグネシウムイオンをキレートしてしまうため)
一般にテンプレートDNAを含む溶液の量は反応系体積の2 %以下にしておくのが無難です。

マグネシウム塩
耐熱性DNAポリメラーゼの活性には、マグネシウムイオンが必要であり、最終濃度1.5-2 mM*になるように、MgCl2やMgSO4を加えます。
マグネシウム塩は、25 mMないし50 mMの溶液状態で、耐熱性DNAポリメラーゼに添付されていることが多いので、それを利用すればよいでしょう。なお、製品によっては、10Xバッファーにマグネシウム塩が含まれており、この場合は添加する必要はありません。

*濃度に関しては、DNAポリメラーゼに添付されている使用説明書に準じます。
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さて、今回のエントリーからは数回に渡って、PCRのプロトコールについて書いていきたいと思います。PCRの原理や応用に関しては、すでに多くの教科書や実験書で説明されていますから、ある程度のことはほとんどの方がご存知でしょう。ですから、ここではそれらにはあまり触れず、実際にPCRを行う際に必要となる反応系の構築について説明していきます。


PCRの反応系の調整

ここでは、PCR実験を行うにあたり、手早くPCRの反応系を構築するための基本的な考え方について説明していきます。


PCRの反応系は、基本的に次の試薬を用いて調整します。

・ 耐熱性DNAポリメラーゼ
・ プライマー
・ dNTPミックス (dATP, dTTP, dGTP, dCTPを含む)
・ テンプレート(鋳型) DNA

・ 10 x PCRバッファー
・ マグネシウム塩溶液
(塩化マグネシウムや硫酸マグネシウムの水溶液)

これらの中で、プライマーとテンプレートDNA以外は、耐熱性DNAポリメラーゼのキットに添付されている場合が多いので、基本的にはそれを利用します。
また、PCRバッファーの種類によっては、マグネシウム塩を予め含んでいるものがあり、この場合は、マグネシウム塩溶液は不要となります。

PCRの反応系を調整する際には、これらの試薬をどれだけ入れるのか考えることになります。
それでは、さっそく50 uLの反応系を例にしながら見ていきましょう。


反応系の調整 (50 uLスケールを例として)

1. 耐熱性DNAポリメラーゼ


50 uLの系では、1〜1.25 U(ユニット)の耐熱性DNAポリメラーゼを使用します。
(DNAポリメラーゼの種類によっては、これと異なるユニット数が推奨されていること場合があります。 基本的には、酵素に添付されている使用説明書に従ってください)

5 U/uLのDNAポリメラーゼを使用する場合、
1U分として、1U÷5(U/uL) = 0.2 uLが必要となります。

このときの反応系におけるDNAポリメラーゼの濃度は1U/50uL=0.02U/uLであり、この濃度は反応系のスケールが変わっても一定です。したがって、反応系の大きさを変えた場合は、以下の式から、必要なDNAポリメラーゼの量を計算することができます。

添加するDNAポリメラーゼの量(uL) = [0.02U/uL x 反応系のスケール(uL)]/DNAポリメラーゼの単位ユニット(U/uL)


例 20 uLの反応系で、5U/uLのDNAポリメラーゼを最終濃度0.02U/uLで使用する場合

上記の式にあてはめると、
必要なポリメラーゼの量は、[0.02x20]/5=0.08uLとなります。
実際には、このような微量は、ピペットマンで秤量できませんから、数反応分のマスターミックスをつくることになります。


2. プライマー

プライマーの濃度

プライマーは順方向用と逆方向用の2種類を使用しますが、プライマーの最終濃度はどちらも同じにし、0.1~ 1 uMとします。
まずは0.5 uMを目安とし、必要に応じて最適化すれば良いでしょう。
なお、プライマー濃度が高すぎると、非特異的な増幅が起こりやすくなります。


プライマーの調整
プライマーは乾燥状態か溶液状態で提供されます。乾燥状態の場合、まずプライマーの入ったチューブをスピンダウンしてから、TEバッファー*などを加えて、任意の濃度に調整します。なるように、プライマーを溶かします。この時の濃度は、50ないし100 uM (pmol/uL)が良いでしょう。
例えば、プライマーを最終濃度0.5 uMで使用するならば、プライマーを50uMの溶液に調整しておきます。それにより、50uLの反応系ならば、0.5uLのプライマー溶液を加えればいいわけです。
ほとんどのサプライヤーは、プライマー収量のデータを添付してくれますから、プライマーの溶解に必要なバッファー量は、簡単に求めることができます。

*この時のTEバッファーは、10 mM Tris-HCl, 0.1 mM EDTA pH 8.0がおすすめです。
EDTAの濃度を通常の1mMではなく、0.1mMにしているのは、できるだけ反応系のマグネシウムイオンをキレートしたくないためです。


TEに溶解したプライマーは、凍結再融解の繰返しやコンタミを避けるために、分注して-20℃で保存するのがベストです。
プライマーの最終濃度が低い場合などは、50 or 100 uMのままでは使いづらいかもしれません。そのような場合は、一部を使いやすい濃度へと希釈し(working solution)、残りは希釈せずにstock solutionとして保存しておくとよいでしょう。


プライマーの保存
Working solution:4℃で保存(一般的に2週間程度まで保存可能。ただし、精製グレードやメーカーによって異なってくる)
Stock solution: -20 ℃で保存 (1年以上保存可能)

*プライマーの設計については、後の方のエントリーで説明する予定です。

以降、次回のエントリーに続きます。
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遅ればせながら、明けましておめでとうございます。
本年もLablogueをどうぞ宜しくお願い致します。


当ブログの大学院入試関連エントリー、とりわけ科学英語対策のエントリーには、今現在も多くのアクセスがあります。どのような検索語からこのエントリーに辿り着いたのかを見てみると、「科学英語 単語」や「科学英単語」といった検索語が多く用いられていました。

検索語から科学英単語に対するニーズがあることは明らかなのですから、それに応えるのがLablogueの役目でしょう! ということで、今回のエントリーではLablogue管理人の作成した科学英単語帳をアップしたいと思います。
この科学英単語帳は、管理人が学部生の頃に大学院入試対策を兼ねて、科学系の英文(主に学術誌の論説やニュース記事)を多読していた際に、出くわした英単語を収集したものが原型になっています。

特徴としては、

1. 実際に科学系の英文を読んで、頻出する英単語を収録
2. ABC順に並べるのではではなく、分野ごとに関連性のある単語をある程度まとめて配置
3. ある程度の学術用語も収録


スペースの関係から、単語の詳細な説明はありませんが、これを取っ掛かりとして使いながら、必要に応じて辞書を参照して頂くと良いでしょう。

今回アップするのは、スタンダード版とエッセンシャル版の2種類で、

1.スタンダード版
・収録語数(約1,350語
・一般科学系の英文で使用される単語の他、生命科学系の学術用語もある程度カバー。

2.エッセンシャル版
・収録語数(約1,050語
・スタンダード版から使用頻度がやや低い一部の学術用語をオミット。

となっております。

使い方としては、各自好きなように使って頂いてよいのですが、まずは以下の
PDFファイルをダウンロード→印刷し、音読と書くことで覚えるやり方をおすすめします。泥臭いかもしれませんが、着実な方法だと思います。


Lablogue英単語帳スタンダード版 ver.1.0
Lablogue英単語帳エッセンシャル版 ver.1.0

画面右上の↓をクリックすると、保存できます。

ついでに、別の勉強法も紹介しておきましょう。
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