2010年08月

DNAのライゲーションを行う場合、付着末端*(cohesive end)の方が、平滑末端(blunt end)よりもライゲーションの効率が良いとされています。
したがって、基本的には付着末端でライゲーションすることが望ましいのですが、
場合によっては平滑末端でライゲーション(blunt-end ligation)せざるを得ないこともあります。
今回のエントリーでは、blunt-end ligation等のためにDNAの突出末端を平滑化する
プロトコールを紹介したいと思います。

*粘着末端(sticky end)と同義



二本鎖DNAの突出末端を平滑化する場合には、突出した末端の方向性に応じて以下の方法があります。

・ 5'突出末端の場合
5'突出末端を鋳型にして、相補鎖の3'末端をKlenowフラグメントなどのポリメラーゼ活性によって伸長させることで平滑化する。


・3'突出末端の場合
3'突出末端をT4DNA ポリメラーゼが持つ3'→ 5'エクソヌクレアーゼ活性で削って平滑化する。


一般的には、前者の方法、つまり5'突出末端をKlenowフラグメントなどで平滑化するのが望ましいとされています。これは3'突出末端をT4 DNAポリメラーゼの強力な3'→5'エクソヌクレアーゼ活性で平滑化しようとすると、削りすぎてしまい、一塩基ほど5'突出末端になってしまうことがあるためです。その結果、5'突出末端を平滑化した場合に比べて、ライゲーションの効率が低くなります。


5'突出末端の平滑化プロトコール

ここではタカラバイオのKlenowフラグメントキット(Takara Bio, cat no. 2140A, or 2140B)を例に、5'突出末端を平滑化するプロトコールを紹介します。(ここで、タカラバイオのもの使用しているのは、Lablogue管理人が単に使い慣れているという理由です。もちろん他社のものでも構いませんが、その場合は使用説明書に従ってください)


まずKlenowフラグメントを適切に扱うために、以下の点に留意しておきましょう。

・ 活性にはMg 2+を必要とする。
・ vortex等の激しい衝撃により失活しやすい。混ぜるときは、ゆっくりとピペッティングする。








反応液の組成(20 uLの系)
DNA 0.1~2 ug
10× Klenow Buffer(注1) 2 uL
2.5mM dNTP Mixture 1.6 uL (最終濃度 0.2mM)
Klenow Fragment 0.1~0.2 U (注2,3)
滅菌MilliQ ~20 uL

注1):Klenow Fragment(製品コード 2140A/B)に添付
注2):酵素の量はDNA1 ugに対して0.1Uが目安
注3):複数の反応を行うときはマスターミックスを作製する。1反応しかしかしない場合は1X Klenow Bufferで希釈する。


1. 上記の組成で反応液を調整し、37℃で10~30分間反応する。

2. 70 ℃で10分間加熱することでKlenowフラグメントは失活する。平滑化したDNAをサブクローニングなどに使用する場合は、フェノール/クロロホルム処理した後、エタノール沈殿を行う。



参考サイト
http://catalog.takara-bio.co.jp/product/basic_info.asp?unitid=U100003145
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先日、とても役に立ちそうな科学英語のサイトを見つけましたので、ここで紹介しておきたいと思います。

東京大学 大学院 理学研究科
科学英語を考える

http://www.s.u-tokyo.ac.jp/ken/eng/englist.html

多くの日本人が苦手とする冠詞の使い方や、よりネイティブに近い自然な英文を書くためのヒントについて、実例を交えながらわかりやすく解説してあります。正直、目からウロコでした。

来年度の大学院入試まで1年を切りつつあるこの時期、英語の力は一朝一夕では身につきませんから、学部3年生の方はそろそろ準備を始めてほしい時期ですが、今回紹介したサイトは科学英語学習の手助けになるはずです。
もちろん、受験生だけでなく院生の方などにも有用であることは間違いありません。


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Lablogue科学英単語帳
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ここ一連のエントリーでは、大腸菌のトランスフォーメーションとプラスミドのプレップに関するプロトコールを紹介してきました。そこで今回のエントリーでは、それら関連した実験として、制限酵素処理について説明したいと思います。
なお、ここではプロトコールをただ紹介するのではなく、より応用が効くように、制限酵素処理の反応系の組み方を中心に述べていきます。


制限酵素処理の反応系の組み方

ここでは一般的な制限酵素処理の反応スケールである20uLの系を例にしながら説明していきます。
制限酵素処理の反応系を組むにあったっては、まず次の項目について、その量を設定します。

1. 基質となる(制限酵素で切断する)DNAの量(濃度)
2. 制限酵素の量


1. 基質となるDNAの量
実験の目的に応じて、制限酵素処理するDNAの量を決めますが、制限酵素処理では一般的に、基質となるDNAの濃度は200 ng /uLが上限とされていますから、20 uLの系の場合、DNAの量は4 ug以下とします。とは言え、サブクローニングが目的の場合は、通常もっと少ない量のDNA(1-2 ug)で十分でしょう。

2. 制限酵素の量
使用する制限酵素の量は、基質DNAの量と制限酵素の活性から、添加する制限酵素の量を決定します。

一般的に、制限酵素の活性は、
「1ユニット(U) = 50uLの反応系で1 ugのラムダファージDNAを1時間で消化する酵素活性」
で定義されます。
例えば8~20U /uL定義とされている制限酵素ならば、1uLの酵素で1 時間あたり、少なくとも8 ugのラムダDNAを消化(切断)できることになります。

このことから考えると、20uLの系ではDNAの量は最大でも4ugですから、8~20U /uL の制限酵素を使用する場合、制限酵素は0.5-1uLも使用すれば十分と考えられます(仮に至適温度で1時間程度反応させるとして)。また、酵素を節約したい場合は、さらに減らすことも可能です。(ただし、減らした分だけ時間はかかります)

なお、制限酵素のスター活性を抑えるために、添加する制限酵素の量は反応系の10分の1以下にする必要があります。

制限酵素のストック溶液はグリセロールの濃度が50 %であり、制限酵素の添加量が反応系の10分の1を超えると、反応系のグリセロール濃度は5 %を超えてしまいます。
グリセロールの濃度が高いと、ある種の酵素はスター活性が誘発されやすくなってしまうので、酵素の添加量は反応系の1/20(20 uLの系ならば、1 uL)程度に抑えておくのが無難と言えます。酵素は少なくてもDNAは十分に切れます。


Appendix : スター活性を誘導する要因
・5 % 以上のグリセロール濃度
・25 mM以下のイオン強度
・高濃度のDMSO







一般的な反応系の例
基質DNA溶液x
10 x Buffer2
制限酵素0.2~1
滅菌MilliQup to 20
20 uL

*制限酵素の種類によってはDTT (Dithiothreitol)やBSA(Bovine Serum Albumin)を加える。(メーカーの取扱説明書に従うこと)



制限酵素処理のプロトコール

1. 制限酵素の10Xバッファーを室温で溶かし、インバートもしくはボルテックスで撹拌し均一にする

2. マスターミックスをつくる
滅菌MilliQ、10Xバッファー、制限酵素の順に加えていく

3. マスターミックスを分注したら、基質DNAを加え、ピペッティングする

4. 使用する制限酵素の至適温度下で、1時間からオーバーナイト
上で述べたように、制限酵素の活性と基質であるDNAの量によって時間は変わってくるが、多くの場合1時間も反応させれば十分である。

5. 反応産物の一部をアガロースゲル電気泳動にかけて、ちゃんと切れたか確認する



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8月になり、相変わらず用もないのにコールドルームへ行きたくなるような日々が続いていますが、みなさんいかがお過ごしでしょうか?

さて、拙ブログをご覧の方々の中には、M1(修士課程1年)の方々もいらっしゃるかと思います。さらにその中には4月から新しい研究室に移ったM1の方も少なくないと思いますが、おそらく新しい環境にも完全に慣れ、実験をガンガンこなされていることでしょう。

ようやく修論の研究に本格的に取り組み始めた矢先にこのような話題を持ち出すのは、少々気が引けるのですが、進路(就職or博士課程進学)については、考えていらっしゃるでしょうか?
博士課程へ進学するか就職するか迷っている方も多いかもしれませんが、実は決断のリミットはもうそんなに未来のことではないのです。

そこで時期柄、今回のエントリーでは、就職を希望されているM1の方のために、「Lablogue的就活メモ」と題して、管理人が就活の中で感じたことやアドバイスをざっくばらんに書いてみたいと思います。


Lablogue的就活メモ

・進路(就職or進学)はM1の7月、遅くとも9月までには決める。
2011年1月 追記 
経団連は2013年春入社予定の学生の就活から、会社説明会など採用に関する「広報活動」の開始時期を2ヶ月遅らせて、学部3年生(大学院生は修士1年)の12月1日以降とする指針を打出しました。

・ 研究職を志望する場合、インターンシップはそれほど重要ではない。ただし、志望する企業が研究職のインターンシップを募集していたら、応募すべき。
なお、インターンシップの選考に落ちても、採用の選考には直接影響しない場合も多いので、あまり気にしないこと。

・研究職の募集では、工学系や化学系の学生を募集しているものは多いが、生物系は少ない。故に、採用数に対して志願者がかなり多く、有名企業では倍率が数十倍を超えることもざらにあるので、対策と準備をしっかりして臨むこと。

・就活支援サイト(リクナビ、マイナビ等)は2つか3つくらい登録してしておくとよい。(特定の就活サイト経由でしかエントリーできない企業もある。)また、これは情報の偏りを防ぐことにもなる。逆に多すぎてもだめ。情報が消化しきれなくなる。

・ 会社説明会に参加する時は、説明会開始の30分前には会場に到着しておくこと。多くの場合、液晶プロジェクターを使って説明するが、会場の大きさに対してスクリーンが小さいことが多く、後ろに座るとほとんどと見えない。
そのため、できるだけ早めに会場に到着し、前の方の席を確保すること。

・ 研究以外はやりたくありませんという姿勢は企業から見てNG。多くの企業は柔軟性、適応性の高い学生を求めている。

・ こんなことやってみたいというヴィジョンを示す(夢を語る)ことは重要。

・ 学生時代の研究を企業でそのまま活かせることはあまり無いし、企業も期待していない(残念ながら)。そのため、企業は学生の研究テーマ自体はあまり重視しないことが多い。重視するのはポテンシャルである。

→例えば、修論で基礎医学的な研究をやっていたとしても、製薬メーカーの研究職採用において、それが必ずしも有利にはならないということである。
そのため、自分の研究テーマに関する知識やスキルが就職してから役に立つこと(だけ)をアピールするのではく、研究や学生生活の中で培った自分のポテンシャル、経験(例えば、研究上の困難をどのように乗り越えたか等)をアピールすることが重要である。

研究職の採用だからといって、研究能力だけをアピールしても、企業からは必ずしも魅力的に見えるわけではない。
それよりも、自分の長所を具体例とともに最大限アピールし、他人と差別化できるかがポイント。

・ 面接等で自分の修論内容を説明する時は、わかりやすさを心がけ、簡潔・明瞭にすること。

→難しい研究テーマをいかに分かりやすく説明できるかもプレゼン能力の内で、面接官(人事担当者)は研究内容よりもそこに注目していることが多い。
また、場合によっては、わかりやすさを優先すること。身近な具体例や誰でも知っているトピック・キーワードと結びつけることも重要。

・目立った資格の無い人はTOEICを受けておいた方が良い。


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