2010年06月

今回のエントリーでは、Lablouge流のミニプレッププロトコールを紹介したいと思います。基本に忠実なプロトコールですが、各ステップにおいて、できるだけ効率的になるようにモディファイしてあります。
また、初心者の方でも実験できるように、可能な限り多くの注釈をつけたつもりです。


アルカリミニプレップのプロトコール
(培養スケール2mLの場合)



1. 大腸菌を培養したLB培養液を1.5 mLマイクロチューブに全量注ぎ、5,000 rpmで2 min遠心する。(遠心機の温度は室温でも4℃でも可)

2. 上清をデカンテーション(*1)もしくはアスピレーターで、できるだけ取り除く。(*2)

*1 ここでは、マイクロチューブを傾けて上清を取り除く操作を意味する。手首のスナップを効かせて、多少勢い良くチューブを振ってもよい。

*2 型質転換した大腸菌の培養上清は、必ずオートクレーブしてから廃棄すること。

培養後すぐにプレップが出来ない場合は、上清を取り除いた後、ペレットの状態で凍結保存する(-20℃)。この状態で数カ月は保存できる。


3. 大腸菌のペレットにSol 1を120 uL加え、ボルテックスで十分に懸濁する。

4. Sol 2を240 uL(Sol 1の倍量)加え、3~5回穏やかにチューブを上下に反転させて(この操作をインバートと呼ぶ)、混ぜる。

Sol2は強アルカリであるため、この状態で放置するとプラスミドが不可逆的に変性するおそれがある。そのため、Sol2を加えてインバートしたら、あまり時間をおかずに5へ移行すること。


5. Sol 3を180 uL(Sol 1の1.5倍量)加え、数回インバートした後、軽くボルテックスする。

この後、氷上で5分静置するプロトコールもあるが、省略可。


6. 15,000 rpm、4℃で5~10分間遠心する。

7. ピペットマンで上清を回収し、新しいマイクロチューブへ移す。

8. RNase (10mg/mL)を0.5~1 uL加えて軽くボルテックス。スピンダウン*した後、37 ℃で20 分インキュベートする。


*小型の卓上遠心機などで、ほんの数秒遠心して、チューブ内側の側面やフタについた内容物をチューブの底の方へ落とすこと。

9. フェノール/クロロホルム(通称フェノクロ)を300 uL加え、ボルテックスした後、15,000 rpm、室温で5 分遠心する。

この時のボルテックスは最高強度の振動で30-45秒間くらい。


ここで使用しているフェノクロは平衡化したフェノールに同量のクロロホルムを加えてたものを指す。(50 mLの遠心用チューブを容器にして調整するとよい。)

フェノクロの代わりに、フェノクロにイソアミルアルコールを加えたものを使用してもよい。この場合、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール=25:24:1の比率で混合したものを使用する。

フェノクロを調整する際には、平衡化したフェノールの水層を少量入れると、酸化防止になる。また、フェノールとクロロホルムを混合した後は、有機層と水層をしっかりと分離するために4℃でオーバーナイト静置する。(混合後、すぐに使用したい場合は室温、1000-3,000 rpm で10分程度遠心する。)また、調整後は遮光のためにアルミホイルでくるみ、4℃で保存する。

10. 上清を新しいマイクロチューブに移し、イソプロパノール(常温で良い)を540 uL加えて数回インバートした後、15,000 rpm、4 ℃で10分遠心する。遠心後、デカント等によって上清を取り除く。

11. 70 %エタノールを800 uL加え、15,000 rpm、4 ℃で5分間遠心する。

12. 上清を取り除いたら、プラスミドDNAのペレットを軽く乾燥させる。


脱気しながら遠心乾燥させても良いし、室温で自然乾燥させても良い。自然乾燥させる場合は、マイクロチューブのフタを開けた状態で逆さまにし、キムタオルの上に置いておく。もしくはマイクロチューブをラックにセットしてからフタをあけ、台所用のラップをふわりとかぶせて10-30分程度放置してもよい。

DNAのペレットはカラカラになるまで乾燥させる必要はない。

シークエンス用のプラスミドをプレップする際には、この後、ポリエチレングリコール(PEG)沈殿を行う(下記のPEG沈プロトコールを参照)
サブクローニング用等のプラスミドは13へ移行。


13. DNAのペレットを20~50 uLのTEに溶かす。

14. 吸光度測定、アガロースゲル電気泳動等を行い、プラスミドがきちんと取れたか確認したら、-20℃で凍結保存。


サブクローニングに使用するプラスミドを得るためならば、ここまででOK。


ポリエチレングリコール沈殿のプロトコール
(ステップ12からの続き)

1. 乾燥させたプラスミドを200 uLのTE or 滅菌MilliQ水に溶解させたら、13 % PEG/1.6 M NaClを200 uL加え、30~60 分間氷上で静置。

ここで使用するPEGの分子量は8000程度 (PEG 8000)のものを用いる。

2. 4 ℃、15,000 rpmで20分間遠心し、上清を取り除く。

3. 70 % EtOHを600 uL加え、4 ℃、15,000 rpmで5分間遠心する。上清を取り除き、乾燥させる。

4. 20~50 uLのTEに溶解する。

5. 吸光度を測定、アガロースゲル電気泳動等を行った後、-20℃で保存する。



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前回のエントリーでは、プラスミドのプレパレーションを行うに当たって、知っておくべき事項を概説しました。今回のエントリーでは、その補足として、プラスミドのコピータイプ別に、プレップする際の培養スケールをどのくらいに設定したら良いのか説明したいと思います。


プラスミドのコピータイプと培養スケール
以下に、各コピータイプのプラスミドごとに一般的な培養のスケールを紹介しておきます。

・高コピープラスミドの培養スケール
例: pcDNA3やpBluescriptⅡなど

サブクローニングまたはシークエンス用のプラスミドのプレップ
→培養スケール 2mL


高コピーの場合、上記目的のためのプラスミドを用意するには2 mLの培養液で十分です。


トランスフェクション用プラスミドのプレップ
→培養スケール 100 mL以上


培養細胞へのトランスフェクション等、大量(数百ug~数mg程度)のプラスミドが必要な場合。



・低コピープラスミドの培養スケール
例:pET系のプラスミド等

サブクローニングまたはシークエンス用プラスミドのプレップ
→培養スケール 10~20 mL




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前回までのエントリーでは、短時間で済む大腸菌のトランスフォーメーションについて説明してきました。通常、トラフォメが終わったら次はプラスミドのプレパレーション(通称 プレップ)を行うことが多いため、今回のエントリーからはプラスミドのプレップについて、説明していきたいと思います。


・プレップ法の選択


大腸菌をトラフォメして培養したら、その次は大腸菌の中で増やしたプラスミドを精製することになります。この作業はプラスミドのプレパレーションと呼ばれ、さらにその後の実験に供するプラスミドや保存用のプラスミドを用意(プレパレーション)することを意図します。

プラスミドのプレップにはいくつかの方法がありますが、基本的には以下に挙げる3つの方法で多くの実験に対応できます。
これらの方法のうち、どれを用いるかは、精製したプラスミドを何に使うのかによって決まります。


1. アルカリプレップポリエチレングリコール沈殿、通称PEG沈:無し
→ 制限酵素処理や電気泳動による確認など、プラスミドの精製グレードが比較的低くてもよい場合に用います。

2. アルカリプレップ(PEG沈:有り)
→ シークエンシングのテンプレート用として使用するプラスミドを精製するのに用います。

3. 陰イオン交換クロマトグラフィーカラムによる精製 (市販されているカラム式の精製キットを使用)
→ 培養細胞へのトランスフェクションに使用するプラスミドなどの、高い精製グレード(大腸菌由来のエンドトキシンを含まない)が必要な場合や、大量のプラスミドを精製したい場合に用います。


・培養スケールの検討
プレップを始める際には、まず実験に必要なプラスミドの量に応じて、トラフォメした大腸菌をどのくらいのスケールで培養するのか決める必要があります。
培養スケールを決定する上で、注目しなければならないのは、プラスミドがもつ複製起点の種類です。
複製起点の種類によって、ひとつの大腸菌細胞内で存在できるプラスミド分子の数がおおよそ決まっており、数が多いものをhigh-copy(高コピーor多コピー)少ないものをlow-copy(低コピー)のプラスミドと言います。
high-copyの場合はlow-copyに比べて、より小さな培養スケールで必要量を確保できます。

サブクローニング用やトランスフェクション用のプラスミドなどは、pMB1ori やColE1 oriといった複製起点を改変して高コピー化した複製起点を持つことが多く、その一方、タンパク発現用のプラスミドなどは低コピーの複製起点をもつのが一般的です。自分の使うプラスミドがどちらのタイプに属するかどうかは、プラスミドを購入した際に添付されている資料やインターネットで調べることができます。(以下に例を挙げておきます)


http://www.promega.com/techserv/techref/nucleic_acids.htm#b03
http://www.qiagen.com/plasmid/bacterialcultures.aspx


次回のエントリーでは、各タイプのプラスミドについて、一般的な培養スケールの例を紹介する予定です。
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大腸菌のトラフォメプロトコールに関する最後のエントリーとして、トランスフォーメーションにおけるコントロールの必要性について書いておきたいと思います。


大腸菌のトランスフォーメーションにおけるコントロールについて

トランスフォーメションにおいては、プラスミドを加えないコンピテントセルをプレートに播くというネガティヴコントロールが欠かせません。特に、以下のケースではこのネガコンが無いと危険です。

・調整してから時間がたった寒天培地を使用する際

→抗生物質が失活している可能性がある

・新規に調整したコンピテントセルを初めて使う場合

→既に別のプラスミドでトラフォメされた大腸菌がコンタミしている可能性がある

また、ライゲーション産物でトラフォメする場合や、実験初心者がトラフォメする場合は、すでに実績のあるプラスミドを使用したポジティブコントロールも欠かせません。



Appendix
トラフォメを時間通りに済ませるためのポイント


・ヒートショックで使用するヒートブロックorウォーターバスを予め温めておく

・安全キャビネットを確保しておく
(培地プレートを安キャビ内で乾かしておくと場所取りになるが、他の人の迷惑にならないように気をつけること)



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