2010年04月

コラム:生命科学の学習法 (学部生向け)

以前のエントリーでは、大学院受験の勉強法についていろいろと書きましたが、その内容は短期間で効率的に受験対策をすることを目的としたため、やや受験テクニック的な内容になってしまいました。

しかしながら、勉強は本来、大学院受験のためだけにやるものではありません。

今回のコラムでは、Lablogue管理人の考える理想的な学習法について書いてみたいと思います。ここで紹介する学習法は、それなりに時間と努力を必要としますが、その分得るものは非常に多く、博士課程に進むにせよ、修士で就職するにせよ、研究でメシを食っていくための下地づくり役立つと思います。学部1~3年生の方には、この学習法をぜひ参考にしていただけたらと思います。このように、時間をたっぷり使って、深く学習できる機会は、実は学部の1-3年の間だけだったりしますから。

・用意するもの
生命科学系のメガブック*(原書)と、その訳書

*1000ページを超えるような、幅広い分野をカバーした参考書のこと

オススメは、W.H. Freeman社のMolecular Cell Biologyで、この翻訳は東京化学同人から「分子細胞生物学」として出ています。(同名の書籍が同じ出版社から出ていますが、Lodishらが著者になっている方を選んでください)

学習の手順

1. メガブックの原書を(ほぼ)最初から読み始めます。
既に自分がよく理解している章はとばしてもよいのですが、基本的には通読します。ただし、学習は面白くなくては長続きしませんから、自分が興味のある章に対象を絞っても構いません。1回の学習で6~10ページ位が妥当な量でしょう。

読む際には、重要箇所にアンダーラインを引きながら読みます。
また、わからない英単語が出てきたら、必ず調べてメモしておき、自分だけの単語帳を作っていきましょう。さらに、科学系の英文でよく使われるフレーズを見つけたら、メモしておきます。
(読み進めるにつれて、そういったフレーズを自然に見つけられるようになります)

2. 原書を読んだら、訳書の該当部分を読んでみて、自分が原書の内容を十分に理解できたのか確認します。

3. 理解した内容を自分なりにまとめます。


メガブックに書かれている内容をただ書き写すのではなく、自分が理解したことを自分の言葉でまとめてみます。考察までできれば、さらに良いと思います。また、図などを使って視覚化することも有効です。


さらに深く学習したい方は、次の5にもチャレンジしてみましょう。

4. 特に興味を持った分野については、最新の知見にアクセスしてみましょう。

方法としては、主に総説誌を利用します。Lablogue管理人のオススメはElsevier社から出ているTrends誌で、Trends in Biochemical SciencesやTrends in Cell Biology, Trends in Geneticsなど、様々な種類があります。これらに掲載されている総説の中から、自分が興味のあるものを読んでみましょう。メガブックを読むだけでは知り得ない世界があなたを待っていることでしょう。



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今まで、2回のエントリーに渡って、大学院入試の専門科目対策について説明してきましたが、今回のエントリーが、その最終回となります。


ステップ2:勉強法の設計
ステップ1で試験問題を分析したら、その結果に基づいて、勉強法を設定します。
ここでは、「知識の拡充」「演習」の2つの部分に分けて考えます。

知識の拡充
まず、前回のエントリーのステップ1-Aで、試験問題がどのレベルの知識を要求しているのか把握したら、それに基づいて適切なレベルの参考書を読み込み、知識を蓄積していきます。方法は人それぞれでよいのですが、Lablogue管理人は、重要箇所にアンダーラインを引きながら、必要に応じて簡単なまとめを作成していました。

なお、参考書を読む際には、ステップ1-Bで分析した、頻出分野を中心に読んでいきます。読まねばならない量は決して少なくないと思いますが、1日何ページというように、一定の分量を課して勉強していきましょう。


演習

演習に関しては、受験する大学院の過去問を中心に行います。
最初のうちは、あまり時間にこだわらなくても良いでしょう。

注)2年分くらいは、後述する本番形式の演習のためにとっておきましょう。

演習の手順としては、

1. 参考書を使わずに問題を解いてみる。
2. 参考書を参照しながら、答え合わせする。
(大学院入試の過去問は解答例が公開されていない場合がほとんどなので、参考書を頼りに答え合わせする)
3. 参考書を参照しながら、自分なりに模範解答を作ってみる。

なお、受験する大学院の過去問だけでなく、他大学院の過去問や市販の演習書にも積極的に取り組んでください。演習書としては、Molecular Biology of the Cellの問題集である「A Problems Approach」(Amazonへ飛びます)がお勧めです。日本語版が無いのが残念ですが、(過去の版に関しては日本語訳もあるのですが、内容がかなり古く、個人的には、演習する価値はあまり無いと思います)英語の勉強にもなると思って取り組んでいただけたらと思います。

また、演習問題を選ぶ際は、自分が受験する大学院の入試問題と似たタイプの問題をメインにしますが、どんなタイプの問題が出ても対処できるように、様々なタイプの問題を解くようにしましょう。

なお、入試が近づいてきたら、「通しでの演習」に力を入れてください。通しでの演習とは、試験時間と同じ時間内で、決められた数の問題を解く演習のことです。もちろん、解答中は参考書を使用してはいけません。いわば、自分で模擬試験*をするのです。これは、試験時間の有効な使い方(時間配分など)を練習したり、集中力を持続させるためのトレーニングになります。要するに、試験の勘を取り戻すためのものと思ってください。
自分の持っている力を試験で十分に発揮するためには、このような本番形式の演習は欠かせません。

*この際に使用する演習問題は、まだ手をつけていない過去問があれば、それを使用しますが、もし、全て解いてしまったら、問題のタイプが似ている他大学院の入試問題を使うと良いでしょう。


Appendix
<記述のポイント>

専門科目の試験では、知識を記述したり、あるいは考察を記述したりと、記述問題がほぼ必ず出題されます。ここでは、記述のポイントについて、簡単に説明しておきましょう。

知識を記述する場合
この場合では、論理的でわかりやすく記述することを心がけなければなりませんが、特に以下のポイントに留意しましょう。

・5W1Hを明確にすること
Whoどんな分子が、What 何を、When いつ(どのような条件のもとで)、
Where どこで、Why なぜ、How どのように、したのか

注)問題によっては、5Wではなく、3Wや4Wでも十分な場合があります。

・より具体的に記述する
例 タンパク質Aがタンパク質Bに作用して、、、
→ もし、この作用がリン酸化であることが広く知られているのであれば、
タンパク質Aがタンパク質Bをリン酸化して、と書くべきです。

・必要なキーワードを外さない
ある知見や現象を記述する際には、絶対に外せないキーワード(キーとなる分子の名前など)が存在していますので、それを過不足なく記述に盛り込みます。問題によっては、予め「以下の用語を用いて述べよ」と指定されていることもあります。

考察を記述する場合
この場合でも、基本的には知識を記述する際のポイントを押さえることが重要となりますが、それに加えて、因果関係を明確に記述することが必要です。記述の際には、実験結果を簡潔に引用し、それ故に、どのようなことが言えるのかを書いていきます。


長々と書いてきましたが、以上がLablogue流の専門科目試験の対策となります。
みなさまのご健闘をお祈りしております。


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前回に引き続き、大学院入試の専門科目対策について説明していきます。

B. 出題分野のチェック
数年分の過去問を入手し、出題分野について以下の点をチェックします。

1. 入試問題において、出題頻度の高い分野があるかどうか。

もし、頻出する分野があれば、その分野を重点的に勉強するのが効率的です。

2. その研究科に所属する教授陣の研究分野と試験問題の出題分野に関連はあるか。

大学院の入試問題は、基本的にその大学院の教授や准教授によって作成されます。彼らが問題を作るときは、多くの場合、自分の研究分野か、それに近い分野を題材として問題を作成します。これは、自分の研究分野から出題するのが、最も容易で、なおかつ出題ミスを犯しにくいからです。(自分の専門外の分野に首を突っ込んで、出題ミスでもしたら、目も当てられませんから)

したがって、その研究科の教授陣の研究分野から、多くの入試問題が出題されている場合は、その研究分野を重点的に勉強するのが効率的です。
ちなみに私が受験した某大学院では、発生生物学と神経生物学の分野の教授が多く、これらの分野からは毎年のように出題されていました。

ただ、注意して欲しいのは、頻出する分野があったとしても、前年に出題された問題と同じような問題はまず出ないということです。例えば、毎年のようにシグナル伝達の分野からの出題するある大学院があり、ある年の入試でGタンパク質共役型受容体(GPCR)関連の問題が出たとすると、次の年にもGPCRに関する問題が出ることは稀です。同じシグナル伝達の分野からでも、受容体型チロシンキナーゼに関する問題が出たりするのです。
その点に留意しながら、どの分野を重点的に勉強したらよいのか検討してください。ただし、幅広く勉強することは重要であり、特定の分野のみに偏らないようにしてください。


C. 問題のタイプのチェック
ここでは、その大学院の入試問題においてどのようなタイプの問題が多く出題されるのかをチェックします。

典型的は問題のタイプとしては、

・単純に知識を記述するタイプ 
→ 考察力ではなく、教科書的な知識が要求される

・実験結果をもとに考察するタイプ 
→ 教科書的な知識はあまり要求されず、考察力が要求される

・上記の2つをミックスしたタイプ 
→ 総合力(知識と考察力)の両方が要求される

などがあります。

自分が受験する大学院の入試問題では、どのタイプの問題が出題されるのかを確認し、演習問題を選ぶ際の参考にしましょう。


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専門科目の対策

このエントリーでは、生命科学系の大学院入試対策として、専門科目の対策と勉強法について紹介していきます。(英語試験の対策については、こちらへどうぞ)

以前のエントリーで述べたように、専門科目の入試問題は生物学、化学、物理、数学等の多岐に渡る分野から出題されます。多くの場合は、その中から数題を選択して解答する形式になっており、普通は自分の専攻している分野の問題を解くことになります。
(分野ごとに試験問題が用意されており、その中から自分の得意な分野を選ぶ形式もあります)

ここでは、生命科学系の学部ないし学科に所属する人を対象に、分子生物学、細胞生物学、生化学分野の問題への対策と勉強法についてアドバイスしたいと思います。

専門科目試験の対策としては、本来ならば、「分子細胞生物学」(東京化学同人)や「細胞の分子生物学」(ニュートンプレス)を1~2年くらいかけて通読するのが良いのでしょうが、そこまでできる人は、決して多くないでしょう。また、入試まで約4ヶ月となったこの時期からでは、もっと効率的に勉強する必要があります。では、一体どうすれば良いのでしょうか? そこで、Lablogue管理人の考える、効率的な勉強法を紹介したいと思います。

ステップ1: 試験問題の分析
英語の試験対策と同様に、まずは志望する大学院の入試問題を4,5年分集めて(最近は、ウェブサイトで公開している大学院が増えてきました)、分析してみましょう。
ここで主にチェックすべきことは、

1. 要求されている知識のレベル
2. 出題分野
3. 問題のタイプ


の3点です。

1.要求されている知識のレベルのチェック

まず、要求されている知識のレベルとは、その入試問題を解くために、どの程度の知識が必要なのかということです。具体的に言うと、「エッセンシャル細胞生物学」(南江堂)レベルの知識で十分なのか、それとも、より高度な「分子細胞生物学」(東京化学同人)や「細胞の分子生物学」(ニュートンプレス)レベルまで必要なのか、ということです。
生化学の分野で言うならば、「ヴォート基礎生化学」(東京化学同人)のレベルで対応出来るのか、それとも「ヴォート生化学」(同)でなければだめなのかということです。
試験問題を見て、どのレベルの知識まで求められているのかを見極めることで、勉強に使用する参考書を決めたり、どの程度の深さまで勉強すれば良いのかが見えてきます。


続きは、次回のエントリーで。
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大学院進学に関するまとめ:番外編

コラム: いくつくらい受験したら良いのか


大学院受験(修士課程への)において、いくつ大学院を受験したら良いのかということは、なかなか難しい問題です。
数が多くなれば、それだけ準備(PIとの面談や出願手続き、受験勉強など)が大変になり、精神的にも体力的にもきつくなります。また、卒業研究への影響も出てくるでしょう。そうかといって、少なすぎれば、受験に失敗した際のリスクや不安も出てきます。

一概にいくつと言うことは難しいのですが、Lablogue管理人やその友人の経験からでは、3校くらいが無理なくこなせる限度ではないかと思います。なお、Lablogue管理人は2校受験しました。
また、複数の大学院に合格した場合は、当然、第二志望以下の研究室を蹴ることになってしまいます。こういったことからも、むやみにたくさん受験することはお勧めできません。
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