2. 大学院進学のプロセス
研究室選びの基準
ここでは、前回のエントリーで述べた方法等によって、進学候補先としてピックアップした研究室の中から、教官との面談へと進むべき研究室を選び出すための基準について書いていきたいと思います。ただし、これから紹介する研究室選びの基準は絶対的なものではなく、あくまでLablogue管理人の個人的な基準であることをご了承ください。
研究室選びの基準1
・研究費がちゃんと取れているか。
「研究は金じゃない、頭の使い方だ!」とは言いますが、やはり、ある程度は先立つものが無いと研究はできません。研究費が年間200万円以下のラボから、年間一億円以上の、そこそこリッチなラボまで経験したLablogue管理人は、その重要性を痛いほど知っています。
何かアイデアを思いついたときに、すぐにそれを実行に移せるか、あるいは研究が発展しかけた際に、それを推し進められるかどうかは、ラボの経済状態に大きく依存します。やはり、研究費は無いよりは、有るに越したことはないのです。特に、将来研究者を目指している方にとっては、これは重要です。(修士で就職する方は、さほど重視しなくても良いでしょう)
では、どうすれば、その研究室がちゃんと研究費を取れているか調べられるのでしょうか?
調べる方法のひとつとしては、科学研究費補助金(科研費)データベースの利用が挙げられます。
ただ、ここで注意しなければならないのは、科研費以外にも様々な研究資金(WPIやGCOE、ERATO、CREST、厚生労働科学研究費補助金など)があり、科研費が取れていないからといって、その研究室が研究資金を持っていないとは限らないということです。
なお、WPIやGCOE、ERATO、CRESTといった大型プロジェクトに自分の興味ある研究室が選ばれているかどうかはインターネットなどで比較的簡単に調べられます。
また、単に研究資金の多寡だけでなく、研究室の人数も考慮する必要があります。研究資金が豊富に見えても、頭数が多ければ一人当たりの研究資金は少なくなるわけですから。
なお、手っ取り早くその研究室がお金を持っているかどうか判断するには、研究室の構成員を見てみましょう。博士研究員(ポスドク)や技術補助員(テクニシャン)をそれなりに雇用している研究室は、その人件費を払えるだけのお金があるということですから、そこそこの研究資金を持っていると考えて良いでしょう。
また、高価な研究機器(例えば、DNAシーケンサーや共焦点顕微鏡、FACSなど)を多数保有している研究室も、お金があるとみてよいでしょう。
最後に、ここまで書いておきながら、こんなことを書くのは逆説的なのですが、あなたが5ないし6年間をその研究室で過ごす間に、研究費が取れなくなったり、逆に取れたりと研究室の台所事情は変動するものです。したがって、研究室を選ぶ際に研究資金そのものにはあまり固執しなくても良いでしょう。あくまで、ひとつの目安と考えておいてください。
研究室選びの基準2
・ちゃんと論文を出しているか
進学候補先としてピックアップした研究室が十分な業績(主に研究論文)を出しているかどうかは、修士課程を出てから就職するつもりの人にとってはさほど重要ではありません。しかしながら、博士号取得を目指している人にとっては、これも重視すべき事項です。
特に、博士課程の学生が、筆頭著者として論文を発表しているかどうかは非常に重要です。なぜならば、筆頭著者となった論文を査読誌(論文の掲載前に審査のある学術誌)に発表or受理され無ければ、基本的に博士号は取れないためです。
学生が論文を出しているかどうかは、その研究室から発表された研究論文*の筆頭著者の名前と、研究室のHPなどに掲載されている学生の名前を照合することで調べられます。この場合、過去に在籍していた学生の名前とその在籍期間を見ながら、修業年限内にちゃんと論文を出しているかどうかを確認します。(ただし、論文が受理されてから、掲載されるまでに時間がかかることがあり、その場合は見かけ上、修業年限を超えてしまいます)
すべての研究室が過去の院生の在籍期間までHPに掲載しているわけではありませんが、少なくとも、過去の博士課程在籍者が筆頭著者で論文を出しているかどうかだけは確認しておきたいものです。
(論文を出した人しかHPに名前を載せてもらえないなんてことが無いともかぎりませんが、、、)
*研究論文はPubMedやその研究室のHPで容易に調べられます。(ただし、HPの更新が疎かになっている研究室も少なくないので、PubMedやGoogle Scholar、Scopus, Web of Scienceなどの論文データベースを利用するのがベターです)
研究室選びの基準3
・学生がちゃんといるか
自分と同年代の学生が研究室に複数いることは非常に重要です。
研究室選びにおいて、私が見聞きした限り、これは外せない条件です。
確かに、研究室は仲良しクラブではありません。自分のやりたい研究さえできれば、仲間となる学生がいようがいまいが関係ないと思う人もいるでしょう。
しかし、そのように考えて、学生がほとんどいない研究室(大学に附置された研究所や、国立の研究所などに多い)に飛び込み、その結果、精神的に苦労してしまった人をLablogue管理人はたくさん知っています。なぜ、彼らはそうなってしまったのでしょうか。
ちょっと考えて欲しいのは、研究生活は山あり谷ありということです。常に順風満帆ではなく、上手くいかない時も必ずあります。また、いろいろ悩んだり、ストレスにさらされたりこともあるでしょう。そんな時に、相談したり励まし合ったりできる学生仲間の存在はとても重要になります。
もちろんポスドクや助教、PIとのコミュニケーションもある程度は助けになるでしょうが、同年代の学生の方がより容易かつ率直にコミュニケーションをとれるはずです。また、互いに同じポジションにいるために、気を使うこともありません。このような学生同士のコミュニケーションは、研究生活を送る上でとても重要です。
また、同年代の学生が同じ研究室にいることは、
・学生づてに学内外のいろいろな情報が入ってくる。
・互いに切磋琢磨し、その結果、研究スキルがアップする。
といったメリットがあります。
さらに重要なことには、学生がそれなりにいる研究室というものは、学生の受け入れから教育まで、それなりのシステムができていることが多く、PIや助教も学生の指導(扱い)に慣れていることです。これが、逆(=学生がいない)の場合、学生への指導やケアの面で、いろいろと問題が起こりがちになります(Lablogue管理人が見聞きした限り)。
これらの理由から、やはり学生がある程度(各学年に2,3人以上)いる研究室を選ぶことをお勧めしたいと思います。
(外部進学する場合、内部進学の学生の中へ、外から一人で飛び込みことを考えると、なんとなく学生の多い研究室を敬遠したくなる人もいるかも知れません。しかし、そういった心配は無用です。一旦、同じ研究室に属してしまえば、ほとんどの人が外部とか内部とかは気にしなくなるものです。)
研究室選びの基準4
研究室が所属する研究科は研究環境として充実しているか
・研究設備は充実しているか
共有の研究設備が充実しているかどうかは、円滑で充実した研究活動を送る上で重要です。
・学生支援は充実しているか
修士課程の学生は基本的には、RA(research assistant)制度などの経済的な支援制度の恩恵に預かることはありませんが、博士課程まで進む予定の人は、この点についても調べておきましょう。
かなり長くなってしまいたしたが、以上がLablogue流の研究室を選びの基準となります。もちろん、ここで紹介した基準は絶対的なものではありませんし、最終的には自分なりの基準で研究室を選んでほしいのですが、Lablogue流の基準が、少しでもみなさんの参考になれば幸いです。
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研究室選びの基準
ここでは、前回のエントリーで述べた方法等によって、進学候補先としてピックアップした研究室の中から、教官との面談へと進むべき研究室を選び出すための基準について書いていきたいと思います。ただし、これから紹介する研究室選びの基準は絶対的なものではなく、あくまでLablogue管理人の個人的な基準であることをご了承ください。
研究室選びの基準1
・研究費がちゃんと取れているか。
「研究は金じゃない、頭の使い方だ!」とは言いますが、やはり、ある程度は先立つものが無いと研究はできません。研究費が年間200万円以下のラボから、年間一億円以上の、そこそこリッチなラボまで経験したLablogue管理人は、その重要性を痛いほど知っています。
何かアイデアを思いついたときに、すぐにそれを実行に移せるか、あるいは研究が発展しかけた際に、それを推し進められるかどうかは、ラボの経済状態に大きく依存します。やはり、研究費は無いよりは、有るに越したことはないのです。特に、将来研究者を目指している方にとっては、これは重要です。(修士で就職する方は、さほど重視しなくても良いでしょう)
では、どうすれば、その研究室がちゃんと研究費を取れているか調べられるのでしょうか?
調べる方法のひとつとしては、科学研究費補助金(科研費)データベースの利用が挙げられます。
ただ、ここで注意しなければならないのは、科研費以外にも様々な研究資金(WPIやGCOE、ERATO、CREST、厚生労働科学研究費補助金など)があり、科研費が取れていないからといって、その研究室が研究資金を持っていないとは限らないということです。
なお、WPIやGCOE、ERATO、CRESTといった大型プロジェクトに自分の興味ある研究室が選ばれているかどうかはインターネットなどで比較的簡単に調べられます。
また、単に研究資金の多寡だけでなく、研究室の人数も考慮する必要があります。研究資金が豊富に見えても、頭数が多ければ一人当たりの研究資金は少なくなるわけですから。
なお、手っ取り早くその研究室がお金を持っているかどうか判断するには、研究室の構成員を見てみましょう。博士研究員(ポスドク)や技術補助員(テクニシャン)をそれなりに雇用している研究室は、その人件費を払えるだけのお金があるということですから、そこそこの研究資金を持っていると考えて良いでしょう。
また、高価な研究機器(例えば、DNAシーケンサーや共焦点顕微鏡、FACSなど)を多数保有している研究室も、お金があるとみてよいでしょう。
最後に、ここまで書いておきながら、こんなことを書くのは逆説的なのですが、あなたが5ないし6年間をその研究室で過ごす間に、研究費が取れなくなったり、逆に取れたりと研究室の台所事情は変動するものです。したがって、研究室を選ぶ際に研究資金そのものにはあまり固執しなくても良いでしょう。あくまで、ひとつの目安と考えておいてください。
研究室選びの基準2
・ちゃんと論文を出しているか
進学候補先としてピックアップした研究室が十分な業績(主に研究論文)を出しているかどうかは、修士課程を出てから就職するつもりの人にとってはさほど重要ではありません。しかしながら、博士号取得を目指している人にとっては、これも重視すべき事項です。
特に、博士課程の学生が、筆頭著者として論文を発表しているかどうかは非常に重要です。なぜならば、筆頭著者となった論文を査読誌(論文の掲載前に審査のある学術誌)に発表or受理され無ければ、基本的に博士号は取れないためです。
学生が論文を出しているかどうかは、その研究室から発表された研究論文*の筆頭著者の名前と、研究室のHPなどに掲載されている学生の名前を照合することで調べられます。この場合、過去に在籍していた学生の名前とその在籍期間を見ながら、修業年限内にちゃんと論文を出しているかどうかを確認します。(ただし、論文が受理されてから、掲載されるまでに時間がかかることがあり、その場合は見かけ上、修業年限を超えてしまいます)
すべての研究室が過去の院生の在籍期間までHPに掲載しているわけではありませんが、少なくとも、過去の博士課程在籍者が筆頭著者で論文を出しているかどうかだけは確認しておきたいものです。
(論文を出した人しかHPに名前を載せてもらえないなんてことが無いともかぎりませんが、、、)
*研究論文はPubMedやその研究室のHPで容易に調べられます。(ただし、HPの更新が疎かになっている研究室も少なくないので、PubMedやGoogle Scholar、Scopus, Web of Scienceなどの論文データベースを利用するのがベターです)
研究室選びの基準3
・学生がちゃんといるか
自分と同年代の学生が研究室に複数いることは非常に重要です。
研究室選びにおいて、私が見聞きした限り、これは外せない条件です。
確かに、研究室は仲良しクラブではありません。自分のやりたい研究さえできれば、仲間となる学生がいようがいまいが関係ないと思う人もいるでしょう。
しかし、そのように考えて、学生がほとんどいない研究室(大学に附置された研究所や、国立の研究所などに多い)に飛び込み、その結果、精神的に苦労してしまった人をLablogue管理人はたくさん知っています。なぜ、彼らはそうなってしまったのでしょうか。
ちょっと考えて欲しいのは、研究生活は山あり谷ありということです。常に順風満帆ではなく、上手くいかない時も必ずあります。また、いろいろ悩んだり、ストレスにさらされたりこともあるでしょう。そんな時に、相談したり励まし合ったりできる学生仲間の存在はとても重要になります。
もちろんポスドクや助教、PIとのコミュニケーションもある程度は助けになるでしょうが、同年代の学生の方がより容易かつ率直にコミュニケーションをとれるはずです。また、互いに同じポジションにいるために、気を使うこともありません。このような学生同士のコミュニケーションは、研究生活を送る上でとても重要です。
また、同年代の学生が同じ研究室にいることは、
・学生づてに学内外のいろいろな情報が入ってくる。
・互いに切磋琢磨し、その結果、研究スキルがアップする。
といったメリットがあります。
さらに重要なことには、学生がそれなりにいる研究室というものは、学生の受け入れから教育まで、それなりのシステムができていることが多く、PIや助教も学生の指導(扱い)に慣れていることです。これが、逆(=学生がいない)の場合、学生への指導やケアの面で、いろいろと問題が起こりがちになります(Lablogue管理人が見聞きした限り)。
これらの理由から、やはり学生がある程度(各学年に2,3人以上)いる研究室を選ぶことをお勧めしたいと思います。
(外部進学する場合、内部進学の学生の中へ、外から一人で飛び込みことを考えると、なんとなく学生の多い研究室を敬遠したくなる人もいるかも知れません。しかし、そういった心配は無用です。一旦、同じ研究室に属してしまえば、ほとんどの人が外部とか内部とかは気にしなくなるものです。)
研究室選びの基準4
研究室が所属する研究科は研究環境として充実しているか
・研究設備は充実しているか
共有の研究設備が充実しているかどうかは、円滑で充実した研究活動を送る上で重要です。
・学生支援は充実しているか
修士課程の学生は基本的には、RA(research assistant)制度などの経済的な支援制度の恩恵に預かることはありませんが、博士課程まで進む予定の人は、この点についても調べておきましょう。
かなり長くなってしまいたしたが、以上がLablogue流の研究室を選びの基準となります。もちろん、ここで紹介した基準は絶対的なものではありませんし、最終的には自分なりの基準で研究室を選んでほしいのですが、Lablogue流の基準が、少しでもみなさんの参考になれば幸いです。
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