2010年03月

2. 大学院進学のプロセス

研究室選びの基準

ここでは、前回のエントリーで述べた方法等によって、進学候補先としてピックアップした研究室の中から、教官との面談へと進むべき研究室を選び出すための基準について書いていきたいと思います。ただし、これから紹介する研究室選びの基準は絶対的なものではなく、あくまでLablogue管理人の個人的な基準であることをご了承ください。

研究室選びの基準1
・研究費がちゃんと取れているか。

「研究は金じゃない、頭の使い方だ!」とは言いますが、やはり、ある程度は先立つものが無いと研究はできません。研究費が年間200万円以下のラボから、年間一億円以上の、そこそこリッチなラボまで経験したLablogue管理人は、その重要性を痛いほど知っています。
何かアイデアを思いついたときに、すぐにそれを実行に移せるか、あるいは研究が発展しかけた際に、それを推し進められるかどうかは、ラボの経済状態に大きく依存します。やはり、研究費は無いよりは、有るに越したことはないのです。特に、将来研究者を目指している方にとっては、これは重要です。(修士で就職する方は、さほど重視しなくても良いでしょう)

では、どうすれば、その研究室がちゃんと研究費を取れているか調べられるのでしょうか?
調べる方法のひとつとしては、科学研究費補助金(科研費)データベースの利用が挙げられます。


ただ、ここで注意しなければならないのは、科研費以外にも様々な研究資金(WPIGCOEERATOCREST厚生労働科学研究費補助金など)があり、科研費が取れていないからといって、その研究室が研究資金を持っていないとは限らないということです。
なお、WPIやGCOE、ERATO、CRESTといった大型プロジェクトに自分の興味ある研究室が選ばれているかどうかはインターネットなどで比較的簡単に調べられます。
また、単に研究資金の多寡だけでなく、研究室の人数も考慮する必要があります。研究資金が豊富に見えても、頭数が多ければ一人当たりの研究資金は少なくなるわけですから。

なお、手っ取り早くその研究室がお金を持っているかどうか判断するには、研究室の構成員を見てみましょう。博士研究員(ポスドク)や技術補助員(テクニシャン)をそれなりに雇用している研究室は、その人件費を払えるだけのお金があるということですから、そこそこの研究資金を持っていると考えて良いでしょう。
また、高価な研究機器(例えば、DNAシーケンサーや共焦点顕微鏡、FACSなど)を多数保有している研究室も、お金があるとみてよいでしょう。

最後に、ここまで書いておきながら、こんなことを書くのは逆説的なのですが、あなたが5ないし6年間をその研究室で過ごす間に、研究費が取れなくなったり、逆に取れたりと研究室の台所事情は変動するものです。したがって、研究室を選ぶ際に研究資金そのものにはあまり固執しなくても良いでしょう。あくまで、ひとつの目安と考えておいてください。

研究室選びの基準2
・ちゃんと論文を出しているか


進学候補先としてピックアップした研究室が十分な業績(主に研究論文)を出しているかどうかは、修士課程を出てから就職するつもりの人にとってはさほど重要ではありません。しかしながら、博士号取得を目指している人にとっては、これも重視すべき事項です。
特に、博士課程の学生が、筆頭著者として論文を発表しているかどうかは非常に重要です。なぜならば、筆頭著者となった論文を査読誌(論文の掲載前に審査のある学術誌)に発表or受理され無ければ、基本的に博士号は取れないためです。

学生が論文を出しているかどうかは、その研究室から発表された研究論文*の筆頭著者の名前と、研究室のHPなどに掲載されている学生の名前を照合することで調べられます。この場合、過去に在籍していた学生の名前とその在籍期間を見ながら、修業年限内にちゃんと論文を出しているかどうかを確認します。(ただし、論文が受理されてから、掲載されるまでに時間がかかることがあり、その場合は見かけ上、修業年限を超えてしまいます)

すべての研究室が過去の院生の在籍期間までHPに掲載しているわけではありませんが、少なくとも、過去の博士課程在籍者が筆頭著者で論文を出しているかどうかだけは確認しておきたいものです。
(論文を出した人しかHPに名前を載せてもらえないなんてことが無いともかぎりませんが、、、)

*研究論文はPubMedやその研究室のHPで容易に調べられます。(ただし、HPの更新が疎かになっている研究室も少なくないので、PubMedGoogle Scholar、Scopus, Web of Scienceなどの論文データベースを利用するのがベターです)


研究室選びの基準3
・学生がちゃんといるか

自分と同年代の学生が研究室に複数いることは非常に重要です。
研究室選びにおいて、私が見聞きした限り、これは外せない条件です。
確かに、研究室は仲良しクラブではありません。自分のやりたい研究さえできれば、仲間となる学生がいようがいまいが関係ないと思う人もいるでしょう。
しかし、そのように考えて、学生がほとんどいない研究室(大学に附置された研究所や、国立の研究所などに多い)に飛び込み、その結果、精神的に苦労してしまった人をLablogue管理人はたくさん知っています。なぜ、彼らはそうなってしまったのでしょうか。

ちょっと考えて欲しいのは、研究生活は山あり谷ありということです。常に順風満帆ではなく、上手くいかない時も必ずあります。また、いろいろ悩んだり、ストレスにさらされたりこともあるでしょう。そんな時に、相談したり励まし合ったりできる学生仲間の存在はとても重要になります。
もちろんポスドクや助教、PIとのコミュニケーションもある程度は助けになるでしょうが、同年代の学生の方がより容易かつ率直にコミュニケーションをとれるはずです。また、互いに同じポジションにいるために、気を使うこともありません。このような学生同士のコミュニケーションは、研究生活を送る上でとても重要です。

また、同年代の学生が同じ研究室にいることは、

・学生づてに学内外のいろいろな情報が入ってくる。
・互いに切磋琢磨し、その結果、研究スキルがアップする。


といったメリットがあります。

さらに重要なことには、学生がそれなりにいる研究室というものは、学生の受け入れから教育まで、それなりのシステムができていることが多く、PIや助教も学生の指導(扱い)に慣れていることです。これが、逆(=学生がいない)の場合、学生への指導やケアの面で、いろいろと問題が起こりがちになります(Lablogue管理人が見聞きした限り)。

これらの理由から、やはり学生がある程度(各学年に2,3人以上)いる研究室を選ぶことをお勧めしたいと思います。

(外部進学する場合、内部進学の学生の中へ、外から一人で飛び込みことを考えると、なんとなく学生の多い研究室を敬遠したくなる人もいるかも知れません。しかし、そういった心配は無用です。一旦、同じ研究室に属してしまえば、ほとんどの人が外部とか内部とかは気にしなくなるものです。)

研究室選びの基準4
研究室が所属する研究科は研究環境として充実しているか

・研究設備は充実しているか

共有の研究設備が充実しているかどうかは、円滑で充実した研究活動を送る上で重要です。

・学生支援は充実しているか
修士課程の学生は基本的には、RA(research assistant)制度などの経済的な支援制度の恩恵に預かることはありませんが、博士課程まで進む予定の人は、この点についても調べておきましょう。

かなり長くなってしまいたしたが、以上がLablogue流の研究室を選びの基準となります。もちろん、ここで紹介した基準は絶対的なものではありませんし、最終的には自分なりの基準で研究室を選んでほしいのですが、Lablogue流の基準が、少しでもみなさんの参考になれば幸いです。
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2. 大学院進学のプロセス
2-A その概要と研究室のピックアップ

ここでは、内部進学に比べて情報が不足しがちな外部進学に焦点をあて、そのプロセスを説明していきます。ここで説明する進学プロセスは、あくまでも一例ですが、多くの場合に対応できると思います。

まず、外部進学のプロセスを簡単に書いてみると、以下のようになります

① 興味のある研究室をピックアップする。

② ①でピックアップした研究室の中から、PI*(教授等、研究室の主宰者のこと)と面談する研究室を選ぶ。
*(Principal Investigatorの略)

③ PIとの面談後、受験する研究室を決め、試験を受ける。



それでは、①から説明していきましょう。

①興味のある研究室をピックアップする

まず、興味があり、進学したい研究室の候補をいくつかピックアップします。研究室を探す上で必要な情報を集める手段としては、

・インターネット
検索エンジン、論文検索サイトPubMed, Scopus, Web of Science, Google scholarなど)を使って、自分の興味ある研究分野のキーワードで検索してみます。

研究科や研究室のHP
研究テーマというよりは、まず行きたい大学院あって、その研究科内で自分の興味ある研究室を探す場合は、最初からこの方法でどうぞ。

・ 入試説明会やオープンキャンパス
各研究科が開催する入試説明会やオープンキャンパスは、その研究科にどんな研究室があるのか知るだけでなく、入試に関する情報も得られ、非常に有用です。あなたが少しでも興味をもった研究科が説明会を開くのであれば、積極的に参加しましょう。また、実際にキャンパスに行ってみることで、キャンパスの雰囲気なども確認してくると良いでしょう。

・科学雑誌やネットの学生募集
実験医学(羊土社)や細胞工学(秀潤社)などの募集欄

Biotechnology Japanの人財募集ページ
http://biotech.nikkeibp.co.jp/bionewsn/index.jsp?icate=6&pg_nm=1

・大学の先輩や教員に聞く

などがあり、これらを駆使して、自分が興味をもった研究室をできるだけたくさんピックアップしていきます。そして、自分なりに何らかの基準を設けて、ピックアップした研究室の中から、進学候補先の研究室を絞り込んでいきます。

研究室の絞込み方は、人それぞれであり、各自が自分の基準に従って選抜すれば良いのですが、少しでも参考になればということで、Lablogue流の研究室の選び方を次回のエントリーで紹介したいと思います。


関連したエントリー:いくつ受験すれば良いのか?
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今回のエントリーでは、生命科学系の修士課程(5年一貫制の博士課程も含む)の入試について説明します。

1. 大学院進学について
1-B修士課程(博士前期課程)入試の概要


入試の時期
大学院入試は国立大学の学部入試のように一律の日程で実施されるということは無く、各大学院、研究科ごとに異なっています。とは言え、年中行われている訳ではなく、ほとんどの大学院では入学前年の7月下旬から9月に試験が行われます。また、翌年の1月末から2月上旬に、二次入試を行う大学院も僅かながら存在します。

なお、各大学院が主催する入試説明会は、早くて4月(ピークは5,6月)から始まりますので、実際にはそれよりも前から情報収集(説明会の日程チェックなど)だけは始めておく必要があります。

試験科目
試験科目は各大学院・研究科によって異なりますが、多くの場合は筆記試験英語および専門科目)と面接(or口述試験)です。
英語の試験に関しては、どの大学院でも似たり寄ったりといった感じで、英文和訳と和文英訳が問題の大半を占めます。
なお、最近では、英語の試験の代わりとして、TOEFLやTOEICを利用する試みが見られるようになってきました。

専門科目の試験は、英語の試験に比べると、研究科ごとに異なっていますが、基本的には以下に挙げる形式が多く見られます。

・生命科学系(分子生物学、細胞生物学など)や物理、化学、数学などの多分野から出題され、その中からいくつかを選択して解答する形式

・各分野ごとに試験問題が用意され、その中から自分の得意な分野を選択して解答する形式


以上が試験科目の概要になりますが、研究科ごとに試験科目や出題形式は異なっていますので、必ず各研究科の募集要項やウェブサイトで確認するようにしてください。
なお、試験対策については、もう少し後のエントリーで詳しく説明する予定です。もうしばらくお待ちください。
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いよいよ当エントリーから、生命科学系の大学院進学に関するLablogue流の解説を書いていきたいと思います。

1. 大学院進学について
1-A大学院進学の概要

まず初めに、あなたが大学院に進学する場合、どの課程に入ることができ、どのような進路をとるのかを説明したいと思います。
下の図を見てください。

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(拡大はこちら

修業年限4年の学部・学科に在籍している場合

まず、修業年限4年の学部・学科に在籍している学生の方が、大学院に進学する場合、修士課程(博士前期課程)か、5年一貫制の博士課程に入学することになります。それぞれについて簡単に説明すると、

・修士課程(博士前期課程)

修士課程は同課程に2年以上在籍し、必要な単位(30単位以上)を取得し、修士論文を提出して審査に合格すれば、修士の学位を取得することができます。

・5年一貫制の博士課程

修士課程については、みなさんもある程度は知っていると思いますが、5年一貫制の博士課程については、あまり馴染みがないかもしれません。
この課程は、研究者の養成を目的に、一貫した長期的教育を行うことを目的として設置されています。また、より研究に専念できるように、様々な配慮がなされており、例えば、博士後期課程への入学試験といったものは存在していません。(5年一貫制の博士課程については、下の方でさらに詳しく説明してあります)

修業年限6年の学科に在籍している場合

修業年限が6年間の学科(医学科、歯学科、獣医学科、薬学科など)に在籍している方が大学院へ進学する場合は、修士課程ではなく、博士課程へ進学します。この際に留意すべきことは、医学研究科や歯学研究科の博士課程は修業年限が3年ではなく、4年になっていることです。
また、当然のことながら、修業年限が3年の博士課程(理学研究科など)
に進学することもできます。

なお、医学研究科などの博士課程には、6年制の学科を卒業した人だけでなく、修士号取得者も進学することができます。


Appendix
5年一貫制の博士課程について

ここでは、生命科学系の5年一貫制の博士課程についてより詳しく説明したいと思います。

まず、この5年一貫制の博士課程ですが、「5年一貫制」という語句のために、絶対に5年間は在籍しなくてはいけないというイメージを持たれる方もいるかもしれませんが、実際には異なります。
この課程も実質的には、最初の2年と後の3年に分かれており、2年次の終りにある中間考査がその区切りになっています。中間考査をパスすることで修士の学位を取得することができ、博士号取得を目指す人はそのまま、博士後期課程の1年目に相当する3年次へと進むことになります。*

博士号取得を目指す場合、中間考査終了後は、最初の2年間と同じ研究室で研究を続けることが一般的ですが、別の大学院の研究室に移るという選択肢も存在しています。この場合は、中間考査の準備を進める一方で、他大学院へと移るための手続(出願や受験など)を並行して行います。そして、中間考査と入学試験(別の大学院の)の二つに合格したら、今の大学院(5年一貫制の方)に退学願を出し、4月から別の大学院へ移ることになります。なお、別の大学院へ移る場合は、遅くとも2年次の秋からその準備(進学先への面接など)を始めます。


一方で、3年次には進まず、中間考査後に就職したい人はそうすることも可能です。ただし、5年一貫制の課程ですから、就職する場合は、中間考査後に退学願を大学に提出し、退学(正確には「修士号取得退学」)することになります。
ですから、履歴書を書く時は、「XX大学大学院OO研究科博士課程 修士号取得退学」とする必要があります。博士前期課程修了や博士課程中退という表記は、この場合正確ではありません。
(ちなみに私が知っている某5年一貫制の研究科では、毎年半数程度が修士号取得退学し、就職していました。ただし、これが一般的がどうかはわかりませんが)

なお、修士号取得退学と聞くと、退学という語句のためにネガティブに聞こえがちですが、実社会では修士課程修了と同等に扱われ、就活の際に差別を受けるようなことは、まずありませんのでご安心ください。もし、どうしても心配でしたら、履歴書には「5年一貫制課程のため、退学扱いとなるが、通常の修士課程修了に相当する」と補足説明を書いておけば良いでしょう。

注)上述した内容は一般的な5年一貫課程の場合について述べたものであり、大学院によっては、上記とは異なるシステムを採っている場合があります。したがって、必ず研究科のHPや入試説明会で確認するようにしてください。



関連したエントリー
1. 大学院進学について
2. 大学院進学のプロセス
3. 大学院入試対策
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大学院進学について

今回のエントリーから、一時的にプロトコール関連の話題から離れて、大学院進学について書いていきたいと思います。
というのも、この4月に4年生になる学部生の中で、進学を意識している人たちはそろそろ大学院進学について気になり始めた頃ではないかと思うためです。
そんな時期ですから、生命科学系の大学院へ進学を考えている学部生さんの参考になればということで、大学院進学に関するLablogue流の解説をアップしていこうと思います。

ここでは、内部進学(注)に比べて、情報がより少ないと思われる外部進学に焦点を当てて、解説していく予定です*。Lablogue管理人やその友人達の経験も踏まえながら、少しでもみなさんのお役に立つことを書ければと思います。

注)便宜上、Lablogueでは、内部進学と外部進学を以下のように定義します。

外部進学:現在在籍している大学とは別の大学院、または同じ大学であっても別の研究科へ進学する場合

内部進学:学部と同じ大学の院へ進学し、卒研と同じ研究室に留まる場合。

*内部進学の場合、研究室の先輩や学内の友人から得られる情報で十分な場合が多いと思われますので、ここではあえて詳しく触れません。


大学院進学を希望する学部生以外の方にとっては、興味ないエントリーがしばらく続くかと思いますが、何卒ご容赦ください。(ウェスタンブロットの合間にでも覗いていただけたら幸いですが 笑)

1. 大学院進学について


2. 大学院進学のプロセス

番外編:いくつ受験したら良いのか

大学院入試対策
科学英語の対策
専門科目の対策
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