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本日のエントリーは久しぶりのブックレビューです。

 近年、中高生が科学的思考力や実験技術を競う、「科学の甲子園」や「科学の甲子園ジュニア」がにわかに注目されています。このようなイベント(サイエンスフェア)の本場であるアメリカでは、地区から州、そして全米までの様々規模のサイエンスフェアが多数開催され、研究資金や奨学金、入学資格などの獲得を目指して、非常に高いレベルの研究発表(全米規模だとドクターコースと遜色ないものも多い)が行われています。
 余談ですが、スポーツ同様、競争であり勝者には大きな報酬が与えられる点は実にアメリカ的ですね。

 サイエンスフェアの頂点に位置するのが、毎年アメリカで開催されるインテル国際学生科学フェアと呼ばれるイベントで、インテル社のスポンサードのもとに全米や世界各地の予選を勝ち抜いた選りすぐりの高校生が研究発表を競います。
このサイエンスフェアに青春どころか人生のありったけをかける子供たちの姿を追ったノンフィクションが「理系の子」(J・ダットン著、文藝春秋 原題:SCIENCE FAIR SEASON)です。2012年に翻訳が出ていますので、もしかしたらご存知の方もいるかもしれません。私も当時から興味があったのですが、昨年の秋に文庫本化されたのを機に、この本を手に取りました。

 本書は2009年のインテル国際学生科学フェアに出場を果たした数人の子供たちについて、本人や教師、家族などへの取材を通じて、いかにして彼らが「理系の子」になったのかを解き明かしつつ、研究時のエピソードやサイエンスフェアでの活躍、そして、その後を描いています。
ここに登場するのは、みな個性的で、ひとりひとりが強烈なストーリーを持った子供たちです。

 ・貧困から家族を救うために発明を成し遂げたネイティブアメリカンの少年
 ・核融合反応に取り憑かれた少年
 ・更生施設から脱却するためにサイエンスに一縷の望みをかける少年たち
 ・9.11をきっかけに環境が激変しつつも、本当にやりたいことを見出した天才少年
 ・アニマルセラピーの科学的実証を通じて、人々を癒やすだけでなく、自らの苦難も乗り越えてみせた少女
 ・研究に出会うことで進路を大きく変えた女優志望の少女
  and more...

 彼らの環境や動機は様々ですが、誰もがサイエンスに懸けていて、可能性はあっても不確実な営みに希望を見出している点はほとんど共通しています。その驚くべき熱意と行動力は、時として危なっかしく、ハラハラさせられますが、サイエンスをすることがこれほどまでに大好きだったり、生きるために必要としている子どもたちがいるという事実には、強く迫ってくるものがあります。

 サイエンスに懸ける子供たちの躍動を清々しい筆致で描く本書は、サイエンスを志した誰もが最初に持っていた純粋な好奇心と喜びを思い出させてくれるでしょう。 研究が思い通りに行かず壁にぶちあたっている人、今の研究テーマにイマイチ心躍らない人、進路を迷っている人、そんな方々にぜひ読んでいただきたい一冊です。