先日、大手学術出版社のElsevierが実験手法を対象としたオープンアクセス(OA)誌を創刊したという興味深いニュースがありました。

このジャーナルには2つのポイントがあり、ひとつは全分野を対象にしていること、もうひとつはOAであることです。

実験手法に特化したジャーナル自体は、Nature Methods(2004年創刊)や
Nature Protocols(2006年創刊)など既に存在しているわけですが、これらのジャーナルは基本的に生化学や分子細胞生物学を対象としており、幅広い分野に対応していません。また、どちらもOAではなく、購読料が必要となります。
学術誌が生き残っていく上で、先行誌に対して差別化を図ることは必須ですが、MethodsXに関しては、全分野対応とOAという概ね望ましい方向に差別化されています。

では、なぜElsevierが実験手法を対象にした学術誌の創刊に踏み切ったのでしょうか?
ひとつはニーズへの対応でしょう。年々、実験手法が細分化・高度化されている現在において、最新の実験手法に関する詳細な情報には非常に高いニーズがあります。
これは、Nature MethodsやNature Protocolsのインパクトファクター(IF)からも明らかです(2012のIFでNature Methodsは23.565、Nature Protocolsは7.960)。 IFの高いジャーナルを持つことは、出版社にとって非常に大きなメリットがありますから、ニーズの高い学術誌を創刊することは至極当然といえるでしょう。

また、なぜOAなのでしょうか。
もちろん、差別化と研究者の利便性が主な理由でしょうが、他にもいくつか推測することができます。
まず、OAにすることで引用されやすくなり、結果としてIFの上昇が期待できます。また近年、OAへの消極的な姿勢や高額な料金体系に関して、多くの科学者から批判され、ボイコット運動まで起こされてたElsevierにとっては、OAにすることで、そのような批判を緩和しようという意図があるのかもしれません(これは穿った見方かもしれませんが)。

MethodsXの創刊に関して、実験の再現性が問題になることが多い昨今、このようなOA誌が出版されること自体は喜ばしいことです。また、出版料が他のOA誌よりも安く(520ドル)抑えられている点も評価すべきでしょう。
出版社の思惑がなんとなく見え隠れするものの、Elsevierがその巨大な力を用いて、MethodsXを伸ばしていくことを期待するのは悪いことではないでしょう。それはサイエンスにとって明らかにメリットがあることですから。