実験器具と試薬のRNase-free化 その1
RNase-freeな試薬と実験器具を用意するために

前回までは、RNaseのコンタミ対策について解説してきました。長々と書いてしまいましたが、大丈夫だったでしょうか?全てを読むのはなかなか大変かもしれませんが、 RNA実験の第一歩として重要なことを書いたつもりですので、ぜひ読んでいただけたらと思います。

さて、今回のエントリーからは、実験器具や試薬のRNase free化について説明します。市販の実験書の多くが省略しているような箇所についても、極力省かずに書いたつもりですので、RNA実験初心者の方でもスムーズにRNase-freeな試薬や実験器具を用意できると思います。

<RNase free化の方法>

さて、RNaseを失活させるにはどうしたら良いのでしょうか?
RNaseは非常に安定なタンパク質ですが、タンパク質であることに変わりはありません。ですから、熱や化学物質(主に酸やアルカリ)によって失活させることができます。(ただし、他のタンパク質に比べて、より強力な条件が必要となります)

まずは、熱によるRNaseの失活からみていきましょう。

・乾熱による実験器具のRNase free化

対象:金属製の実験器具など

RNaseは耐熱性が非常に高く、オートクレーブ(121℃、15分)にかけただけでは、完全に失活しないことが知られています。そのため、乾熱によるRNaseの失活には、180 ℃で8hr200 ℃で4 hrといったかなりharshな条件が用いられます。

乾熱滅菌によるRNase free化の方法(温度と時間は一例です)

手順
1. アルミホイルで乾熱するものを包む。
2. 200℃で2 時間乾熱する。





Appendix

私が初めてRNA実験をする際に、少し困惑したのは、実験書によって乾熱処理の温度と時間がバラバラだったことでした。
例を挙げると、

・ 300℃で4 時間
出典 Molecular Cloning 3rd (Cold Spring Harbor Press) 7.82

・180℃で8時間以上、あるいは250℃で30分以上 
出典 バイオ実験イラストレイテッド①分子生物学実験の基礎 (秀潤社) p38

・200℃でover night
出典 プロメガ社 RNA Guide1
http://www.promega.co.jp/jp/pdf_rna_gd/RNAGuide1.PDF

・ 240℃で4 時間以上
出典 QIAGEN社RNeasy Mini kitのハンドブック

・ 232.2℃(450°F)で2時間以上 
出典 Ambion社のウェブサイトより
http://www.ambion.com/techlib/basics/rnasecontrol/index.html

という感じで、見事なまでにバラバラです。
では一体、どの条件を採用すれば良いのでしょうか?

答えは、
「どれでも良い」です。
「えっ!?」という声が聞こえてきそうですね。これだけしか書かないと私の真意が伝わらないので、その理由を説明したいと思います。

まず、上の方で紹介した条件はどれも間違っておらず、RNaseを失活させることができます。とは言え、ラボによって乾熱滅菌器の数や使用状況は異なります。例えば、乾熱滅菌器が少ないラボにおいて、8時間も乾熱滅菌器を占有してしまうと、他の人に迷惑がかかってしまうかもしれません。そのため、できるだけラボの状況に沿った条件を設定する必要があります。

私の場合は、200℃で2時間という条件でやっていました。この条件にしたのは、私のいたラボでは細胞培養に使用するガラスピペット(細胞培養用なので、高い精度は不要)を180℃で2時間乾熱していましたが、そのピペットを滅菌する際に20℃だけ温度を上げてもらい、そこへRNA実験器具を一緒に入れさせてもらうようにしたためです。このようにすることで、他の人の迷惑をかけずにすみました。
なお、先ほど紹介した条件に比べると温度がやや低めですが、これで問題が起きたことはありませんでした。

注)耐熱性ガラスの実験器具と一緒に乾熱する場合は、ガラスの耐熱性を確認しておきましょう。また、言うまでもないことですが、メスシリンダーやメスフラスコ、メスピペット、ホールピペットなどの高い精度が要求されるガラス器具は乾熱してはいけません。