前回のエントリーでは、乾熱処理によるRNase-free化について説明しましたが、今回のエントリーでは化学物質を使用したRNase-free化方法について説明します。

まず、RNaseを失活させる化学物質にはどんなものがあるのか、見てみましょう。

RNaseを失活させる化学物質

DEPC (diethyl pyrocarbonate)
界面活性剤
 例 SDS(失活させるというよりは、洗浄作用か)
過酸化水素
水酸化ナトリウム*
クロロホルム*

などが挙げられますが、基本的には、赤で示した化学物質を駆使することで多くのRNA実験をカバーすることができます。

*水酸化ナトリウムやクロロホルムは、使用後の処理の問題があるので、特殊な場合を除きRNase-free化に使用することは、お勧めしません。


次に、これらの化学物質を使用した実験器具や試薬のRNase-free化を説明していきたいと思いますが、その前に、RNase-free化の作業に欠かせないDEPC水の調整法を紹介します。

DEPC水の調製法
1. 計量したMilliQ水を試薬ビンに入れる。

2. DEPCを0.1%加えて*、フタをきっちり閉めたら、ビンを上下によく振る。(DEPCの塊が無くなるまで)
*例 MilliQ水1Lに対して、DEPC 1mL

3. 37℃のインキュベーターに入れて2 時間以上置く。(室温でオーバーナイトでも可)

4.フタを少し緩めオートクレーブする。(121℃で20 分*)

ポイント
DEPCは粘度が高いので、ピペットマンで採る時は、ハサミなどで先端をカットしたティップを使うと吸上げと排出がスムーズにできます。また、この時には吸い上げと排出はゆっくりと行いましょう。

Caution !!
DEPCには発癌性がありますので、扱う際には必ず手袋を着用しましょう。


・過酸化水素を用いた実験器具のRNase free化

対象:乾熱もオートクレーブもできない器具(メスシリンダーや電気泳動槽など)

1. エキストランやスキャット、 SDSなどの洗剤を使ってよく洗う(この時、手袋を着用のこと)。

2. 水道水で10回以上すすぎ、さらにD.W.*で3回すすぐ。(DEPC水でなくてよい)

*蒸留水やElixグレードの純水

3. 100 % EtOHで軽くすすぎ、水分を飛ばす。

4. 3 %過酸化水素水(30%過酸化水素水を滅菌したMilliQで10倍希釈)で満たし、室温で15分置く。

5. DEPC水で3回ほどすすぎ、乾かす。


・DEPCを用いた実験器具のRNase free化

対象:オートクレーブできる実験器具(試薬ビン*など)
*試薬ビンの中には乾熱できるものもあります

1. 試薬ビンをMilliQ水で満たし、そこへDEPCを0.1%(v/v)になるように加える。

2. フタをしっかり締めてから容器を振って、DEPCを溶かす。(DEPCの粒が見えなくなるまで)

3. 37℃にセットしたインキュベーターに入れて2 時間置く。(室温でオーバーナイトでも可)

4. なかの水を捨てる。

5. 121℃で20分オートクレーブする。(フタは少し緩め、その上からフタとビンの境目を覆う程度までアルミホイルをかけておく)

6. オートクレーブ後、乾燥機に入れて乾かす。(水溶液を入れる場合は、水滴が少し残っていても問題ない)