MCBのすすめ

さて今回のエントリーは、ブックレビューということで、Lablogueおすすめの参考書について書いてみたいと思います。

ここ数年、細胞生物学・分子生物学の専門書は多種多様になり、大型書店や大学生協には実に多くの専門書が並んでいます。こうした状況は、私たちにより多くの選択肢を提供してくれる一方で、どれを買えばいいのかという選択の迷いを生んでいるようにも思えます。

そこでこのエントリーでは、Lablogueおすすめの細胞生物学・分子生物学の専門書を紹介したいと思います。今回は特に、メガブックと呼ばれる1000ページ近いボリュームを誇る専門書の中から、おすすめの一冊を紹介したいと思います。メガブックは学部~院の期間の勉強における中心的な教材のひとつですから、慎重に選びたいものですね。


Lablogueがお勧めするメガブックは、なんといってもW.H. Freeman社のMolecular Cell Biology (以下、MCB。翻訳「分子細胞生物学」東京化学同人)です。「えっ、The Cell (Molecular Biology of the Cell、翻訳「細胞の分子生物学」ニュートンプレス)じゃないの?」という声が聞こえてきそうですね。もちろんThe Cellも良い参考書です。とはいえ、何も考えずに、最初から「The Cell」と決めてしまう前に、ぜひMCBを手に取ってほしいと思うのです。


注)私はWH FREEMAN社や東京化学同人の回し者ではありません(笑)。
いろいろと読み比べた中で、MCBが時間を費やして勉強するのに見合う参考書だと実感し、お勧めしているだけなのです。



MCBをお勧めする理由


1. 重要な発見がどのようになされたのかについて、その実験と科学的背景がしっかりと述べられている


→MCBは重要な発見がどのようになされたのか、その科学的背景から発見の過程までを(他書に比べて)きちんと説明しています。また、ある研究分野がどのように発展していったのかについても、多くのケースで解説しています。

サイエンスは、以前の知見の上に新しい知見を積み重ねていく営みですから、知見のつながりを学ぶことは重要であり、このようなMCBの記述スタイルはとても役に立つのです。また、このスタイルでは、断片的な知識ではなく、つながりを持つ知識として覚えることができるので、より覚えやすく、なおかつ忘れにくいのです。


2. 他書に比べて、実験データに基づいて説明するスタイルをより重視している

→MCBはある知見を説明する場合、その知見をもたらした実験を紹介し、その結果を解釈した上で説明するというスタイルをとっています(注)。
この記述スタイルにおいては、次に述べるような学習法を実践することで、実際の研究において実験データを考察するための能力を磨くことができます。

まず実験について書かれた部分だけを読み、そこで一旦読み進めるのを止めます。そして、その実験データからどんなことが言えるのかを自分なりに考察してみます。次に、続きを読めば、自分の考察が正しかったのかどうか答え合わせすることができます。こういった学習は、実験データを適切に考察・解釈するための力を磨く上でとても役に立ちます。

このように、MCBを使った学習は、体系的な知識を養うだけでなく、実際の研究活動において役に立つ思考力と考察力を身につけるための絶好のトレーニングになるのです。
そして、それこそが、MCBをおすすめする最大の理由なのです。

(注)他のメガブックも、この記述スタイルを部分的に採用していますが、それは極めて重要な知見についてのみで、その実験に関する記述もかなり簡略されています。MCBは、多くの知見に対して、より詳しい実験の説明を提供しています。


また、MCBは上記した以外にも、イラストのわかりやすさや、段組み、章の構成なども非常に優れていると思うのですが、これらは個人的な好みに因るところがありますので、あえてお勧めの理由としては挙げませんでした。(ぜひ手に取ってみてください。)

なお、MCBを使った学習法に関しては、前回のエントリーを参考にしてください。


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