簡略トランスフォーメーションのプロトコール

前回のエントリーで説明したポイントを押さえることによって、以下のようなプロトコールが可能になります。この方法では従来のものに比べて30~60分程度時間を節約することが可能です。


用意するもの
・コンピテントセル
・氷
・プラスミド or ライゲーション産物
・LB寒天培地(抗生物質入)
・ガラスビーズ(滅菌済み)or スプレッダー
・LBもしくはSOC培地(滅菌済み)


0. トラフォメの準備
トラフォメを始める前に、以下の準備をしておきましょう。

・ヒートショックに使用するヒートブロックもしくはウォータバスを42℃に温めておく。

・LB寒天培地(抗生物質入)の表面を乾かしておく。→ 実験器具の乾燥機(55℃程度)もしくは、安全キャビネット内において、ディッシュのフタをとり、寒天培地が入った方を伏せた状態で20-30分程度放置する(寒天培地の表面の水気がとぶまで)。

寒天培地を乾かし始めるタイミング

プレ培養無し場合:コンピテントセルを溶かす10~20分程度前から乾かす。
プレ培養有り場合:プレ培養を始めてから乾かす。



*大腸菌を播種する際に、ガラスビーズを使用する場合は特によく乾かしておくこと。寒天培地表面に水分が多いと、ビーズが上手く転がらない。

*乾かす寒天培地の数は、コントロールや予備を含めて、良く考えて決めること。



1. コンピテントセルをディープフリーザーから出し、室温下で溶かす。完全に溶けきってしまう前に氷上へ移す

*コンピテントセルの入ったチューブをチューブラックに入れてしまうと、融けるまでに時間がかかる。また、溶け具合をチェックできないので、ベンチの上にチューブを放置する方が良い。

*一部の実験書では、氷上で溶かすように書かれているが、溶けるまでにかなりの時間がかかるので、室温での解凍を推奨。(完全に溶けて、コンピテントセルの温度が上がってしまわなければ問題ない)

*急いでいるときは、コンピテントセルの入っているマイクロチューブを指でつまんで温めてもOK。この方法は一部の実験書でタブーとされているが、少し溶け残る程度まで温めるのならば、指で温めても問題無い。


2. コンピテントセルが溶けたら、プラスミドを加え、チューブを指で軽くタップして混ぜる

*コンピテントセルには強い衝撃を加えない方が良いので、プラスミドを加えたら、ボルテックスやピペッティングはしないほうが良い。

*コンピテントセルがわずかに融け残った状態で、プラスミドを加えても問題ない。

*加えるプラスミド溶液の量はコンピテントセル溶液の5%以下にする。

*加えるプラスミドの量は1~10ng程度で十分。ただし、コンピテントセルの品質(形質転換効率)によっては、プラスミド量の調節が必要。

*ライゲーション反応の産物でトラフォメする場合は、反応産物を全量加える。


3. 氷上で10分静置

*ライゲーション産物でトラフォメする時や大きめのプラスミド(数kbp以上)を使用する時は、やや長めに(15~30分)静置すると形質転換効率が上がる場合がある。


4. 42 ℃にセットしたヒートブロックで30 秒間ヒートショックを加える

*ヒートブロックの代わりに、ウォーターバスを使用しても良いが、ヒートブロックの方がコンタミのリスクが少ない。

5. 氷上に素早く移し、2分間冷やす

6. コンピテントセル溶液の2~3倍量のLBまたはSOC培地を加え、ゆっくりとピペッティングして懸濁する

*アンピシリンを使用する場合は、プレ培養が不要なので、すぐに7へ移る。

*クロラムフェニコールやカナマイシンなど、大腸菌の翻訳系を阻害する抗生物質をを使用する場合は、37℃で30分インキュベートする。

*一般的に、SOCの方がLBよりも形質転換効率がやや良くなると言われるが、高い形質転換効率が求められるライブラリー作製などの場合を除き、LBで十分である。

*振盪培養が望ましいが、それができなければ、インキュベーター内に静置してもよい。(この場合、15分たったら軽くボルテックスにかけて、さらに15分培養する)


7. 大腸菌の懸濁液の50~100 uLを寒天培地プレート(抗生物質入)に植菌する

*コンピテントセルの形質転換効率が不明の場合、コロニーが出来すぎて、ピックアップできない可能性があるので、大腸菌の懸濁液をLB培地で100倍に希釈して播いたプレートも作っておくと良い。

*スプレッダーではなく、ガラスビーズを使うと誰でも均一に大腸菌を播くことができる。


ライゲーション産物でトラフォメする場合は、大腸菌を全量播きたいので、ステップ6以降、以下のようにする。

→室温、5,000 rpmで2分遠心後、上清を捨て、大腸菌ペレットを100 uLのLBに懸濁。懸濁液全量を培地プレートへ播く。


8. 37℃のインキュベーターに入れて、オーバーナイト培養
*ディッシュはフタを下にして、インキュベーター内に置くこと。





さらに短時間でトラフォメを済ませたい方は、、、
「手抜き実験のすすめーバイオ研究五輪書」(羊土社)に特急トランスフォーメーションというプロトコールがありますので、興味のある方はご覧になってください。


参考図書
・Molecular Cloning 3rd (Cold Spring Harbor Laboratory Press)
・手抜き実験のすすめーバイオ研究五輪書(羊土社)



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