「分子生物学実験の基礎」と題して、サブクローニングのプロトコールを数回に渡って紹介してきましたが、今回のエントリーではひとまずその区切りとして、ライゲーションのプロトコールを紹介します。これで、サブクローニングに必要なプロトコールはほぼカバーしましたので、過去のエントリーと合わせてご活用いただければと思います。


ライゲーションのプロトコール

ここでは、Takara のDNA Ligation Kit ver. 2.1(cat. no. 6022) を使用したライゲーションのプロトコールを紹介します。






反応系の例(10 uLスケール)
プラスミドベクター 1 uL
インサートのDNA 4 uL
Solution 1 5 uL
10 uL


留意点
・ 温度が高いと(26℃以上)環状DNAが形成されにくくなる。
・ ライゲーションにおいては、ベクターが3~5 kb 程度ならば、ベクターの量は50 ng程度が目安。50 ng/uLになるように調整しておく。


ワンポイントアドバイス
反応液の体積が小さいので、1.5 mLのマイクロチューブを使用する場合は丸底のものを使う(平底だと、底面と壁面に反応液がべったりと張り付いてしまうため)。もし、平底のチューブしかなければ、1.5 mLマイクロチューブは使用せず、PCRチューブを使用すると良い。


手順

0. インキュベーターorサーマルサイクラーを16℃に設定しておく。

1. SolutionⅠ: DNA溶液(インサート及びベクター)= 1 : 1で混合(優しくピペッティング)し、16 ℃で15〜30分もしくは16 ℃でオーバーナイト (実質的な反応は5分程度で終わると言われている)。

2. ライゲーション産物全量を使用して、大腸菌をトランスフォーメーションさせる。
(トランスフォーメーションのプロトコールは、こちらから)


Appendix
・インサートDNAとベクターのモル比に関して
一般的に、ベクターとインサートDNAのモル比を1:8程度にすると、最もインサートDNAが入る頻度が高くなると言われています。Takara DNA Ligation Kit ver. 2.1の使用説明書には、ベクターとインサートDNAのモル比を1: 0.1〜10まで変えた場合のトラフォメ効率のデータが記載されているのですが、このデータを見る限りベクターの3倍以上のインサートDNAが効率的なライゲーションに必要と言えるでしょう。

・DNAのモル数を求めるには
上述したように、効率的なライゲーションを実現するには、一般的にベクター:インサートDNA= 1: 3〜8(モル比)にする必要があります。そのためには、DNAの物質量(モル数)を求める必要があるわけですが、いかんせんDNAは大きな分子であるにもかかわらず、実験で使用する量は微量のため、物質量を求める際に、計算ミスを起こしやすくなります(特に桁数)。
そこで、Lablogue管理人はそうしたミスを防ぐために、以下のようにして計算しています。例を見てください。

例 50ngのpBluescript Ⅱ(約3,000 bp)のモル数の求める場合
DNAの質量の単位をpg(ピコグラム)にしてから、分子量で割る。

dnacalc.png
*660(Da/bp):塩基対のおよその分子量 (ナトリウム塩として)

この方法では、DNAの質量をpg(ピコグラム)で表すことにより分母が見かけ上大きくなるので、計算がしやすくなり、また解の桁が小さくなりすぎないため、位を間違いにくいというメリットがあります。
ここではついでに、インサートDNAの方も計算しておきましょう。
先程の計算例に出てきたベクターを使用するとした場合、ベクターの物質量は0.025 pmolでしたので、インサートDNAはその8倍、つまり0.2 pmolあれば望ましいことになります。
仮に、インサートDNAの長さを1,000bpとすると、0.2 pmol x 660(Da/bp) x 1,000(bp)=0.13 ugあれば良いことになります。

ただ、実際にはインサートDNAがベクターの8倍以下でも十分にライゲーションできることが多いので(ただし、2~3倍以上は欲しい)、ベクターの8倍のインサートDNAが調整できなくとも、諦める必要はありません。


11/10追記
ニッポンジーンのサイトでベクターとインサートDNAのモル比に関する有用な情報を見つけましたので、アドレスを貼っておきます。
http://www.nippongene.com/pages/products/genetransfer/conveni_kit/conveni_data1.html