一連のエントリーでレーザーマイクロダイセクションを用いた微小組織切片における発現解析について、プロトコールを紹介してきましたが、今回の逆転写とPCRで最後となります。
過去のプロトコールはこちらからご覧ください。

レーザーマイクロダイセクションにより切り出した組織切片由来RNAの逆転写とPCR

ここでは、TakaraのPrimSscript 1st strand synthesis kit (TaKaRa Bio)使用

以下をon iceで調合する
Random hexamers (50 uM) 0.4 uL
Template 8.2 uL
dNTP mix (10 mM each) 1 uL
RNase-free water  0.4 uL

上記を0.2 mL PCRチューブ内で混ぜ、65℃で5 minインキュベートし、 on ice

その後、以下のものを加えて混合したら、RT反応を行う。

5 x Buffer 4 uL
RNase inhibitor 0.5 uL
PrimeScript RTase 1 uL
RNase-free water 〜 20 uL (4.5 uL)


42 ℃ 45 min

70 ℃ 15 min ・・・ RTaseを失活させる


RT反応の間にPCRの準備をする。

必ず、そのままPCRへ移行する。(凍結保存は厳禁)
微量cDNAはfreeze-thawで分解してしまう。(実際にバンドが薄くなってくる)。



PCR反応

用意するもの
Takara ExTaq
プライマー

反応系 25 uLスケール
MilliQ 18.875 uL
10 x Ex taq Buffer  2.5 uL
dNTP mix (2.5 mM each) 2 uL (final conc. 0.2 mM)
Primer F R mix (5 uM each) 1 uL (final conc. 0.2 uM)
Ex taq 0.125 uL
Template (2x diluted) 0.5 uL

PCRの例
94 ℃ 1 min
94 ℃ 30 sec
60 ℃ 30 sec   4 5 cycles
72 ℃ 60 sec
4 ℃ ∞


逆転写時のプライマーに関して
プライマーにはoligo-dTとrandom hexamerがあるが、長いmRNAに関してはrandom hexamerでなければ、後のPCRで増幅されないことがある。どちらのプライマーを用いるかは、最適化が必要であるが、経験上、random hexamerの方が、バイアスがかからないことが多い。

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前回のエントリーから引き続き、2014年を振り返りつつ、来年以降の研究環境について、展望を綴ってみたいと思います。


2011 Youth Ethics Summit / NWABR 画像と記事は関係ありません


研究不正への対策とRCRの推進

 研究者だけでなく世間をも巻き込んで、研究不正がここまで大きく話題になった年は未だかつてありませんでした。STAP細胞やディオバン事件、東大K研をはじめ、細かな事例も含めれば枚挙にいとまがありません。
このように近年多発している研究不正を受けて、文部科学省もようやく重い腰を上げ、研究不正ガイドラインの改訂作業など、本格的な対策に乗り出しました。また、次のトピックで紹介する新法人、日本医療研究開発機構(AMED)には研究不正の対策にあたる部署(日本版ORI的なものか?)の設置も予定されています。そういう意味では、今年は日本におけるRCR()推進元年と言えるかもしれません。

Responsible Conduct of Research
 近年、「責任ある研究活動」などと訳される。RCRを果たすことによって、科学の信頼性が確保され、研究者は社会の信託に応えることが可能になる。研究倫理の先進国である欧米においてRCRといえば、責任ある研究活動を遂行するための行動規範(とその教育)を意味することが多い。

 また、来年からJSTの全ての事業において、申請前に研究倫理研修を受けていることが公募申請の必須条件となります(今年までは、採択後の研修が義務でしたが、それをさらに強化した模様です。http://www.jst.go.jp/pr/jst-news/rijicho/2014.html#ANC11
この動きは文科省の他制度だけでなく、他省庁等の競争的資金制度にも波及する可能性が十分にあるでしょう。
また、文科省により、研究不正が発生した際の研究機関の責任とペナルティが明確化されたことから、所属機関の研究倫理教育が今後、さらに強化されるはずです。これにより、ファカルティやポスドク、学生だけでなく、一般職員やテクニシャンも倫理研修を受ける機会が増えるでしょう。

 来年は皆さんにとってさらにRCRを否が応でも意識しなければならない年になるはずです。しかし、これは必要な取り組みであり、かつてのように、自分は不正をしないから関係ないという考えでは済まされない状況になっています。ラボ内で不正が発生すれば、ラボの研究資金は凍結されますし、共同研究において研究不正に巻き込まれる可能性もあります。周囲や関係先におけるRCRにもきちんとコミットすることが必要なのです。
研究に関わる者であれば誰でも、RCRについて主体的かつ意識的に実践することが求められる時代になったと言えるでしょう。


日本医療研究開発機構(AMED)の発足

 昨年から度々、報道において「日本版NIH」という言葉を見聞きした人も多いでしょう。この「日本版NIH」と呼ばれていた新法人こそが来年4月に発足する日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development, 通称AMED。エーメド)になります。

 余談ですが、AMEDの年間予算は1,400億円程度、職員は約300人であり、米国の本家NIH(予算3兆円以上、職員2万人以上。しかもAMEDにはない、自前の研究所が20以上もある)とは比較にならないほど規模が小さいため、「日本版NIH」という呼称は不適切との意見が国会議員から挙がり、「日本版NIH」という呼び方を政府はしなくなりました。http://cocoyaku.jp/news/?action_news_detail=true&news_id=8189

 この独立行政法人(現時点では独法ですが、設立時には国立研究開発法人になります)は、現政権の肝いりで創設され、文科省、経産省、厚労省に分散していた基礎医学~臨床までの競金制度を一つの法人の下にまとめて、シーズから実用化まで、より効率的な創薬や医療機器開発を目指すとされています。AMEDのトップである理事長には、慶應大学医学部長の末松誠 先生の就任が決定しており、既にこのような資料が発表されています(AMEDの概要を知るには現時点で一番良い資料だと思います)http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/sanyokaigou/dai9/siryou5.pdf

まだ正式に発足していないこの法人が、来年以降の生命科学研究にどのような影響があるのか予測することは容易ではありませんが、現在までに公開されている情報等を基にAMEDの発足がどのような影響を及ぼすのか、考察してみたいと思います。

競金制度の冗長性排除
 AMED設立の大きなねらいの一つは、各省に存在する類似した競金制度(公募)を整理し、制度の"ダブリ"による無駄を無くすこととされています。確かに、対国民の説明としては非常に理にかなっていますが、これは研究者にとっては必ずしもいいことではありません。つまり、競争的資金制度の冗長性が失われることで、ある制度は不採択でも、別の類似制度に採択されるというセイフティネットがなくなってしまいます。また、公募が集約されることで、競争率も高くなる可能性があります。
さらに、こうした冗長性の排除により、採否のボーダー上にあり、惜しくも採択されなかった優秀な提案が他制度で救済されず、研究開発が停滞してしまう可能性があります。

公募の変更
 AMEDは各省(所管の独法含む)の基礎〜臨床医学の研究開発を支援する制度(競金含む)を移管・集約することで発足しますが、これにより移管された事業は、その公募や選考の仕組みがAMEDにより変更される可能性があります。例えば、募集対象や領域が変更になることで、あなたの研究テーマが公募の対象から外れる可能性もあります。したがって、AMEDが発表する情報に注意を払い、今まで以上に公募要領を丁寧に読み込む必要があるでしょう(ただし、AMEDへの移管を前提にH26年度中に公募・採択を行う場合は、移管元の省庁・独法が公募を行うので、従来の制度と大きな変化は無いようです)。
また、制度がAMEDに移管されたものの、既存課題の支援のみでH27年度の新規採択を実施しない場合も予想されます。これは、AMEDで新規に設立される制度に優先的な予算配分を行う可能性があるためです。
なお、JSPSの科研費はAMEDには移管されませんから、これに関しては制度変更などを心配する必要は無いと思われます。

サポート体制
 上で紹介した資料にもあるように、AMEDはわずか300人の職員で発足します。これは、NEDOの800人やJSTの1,300人と比べて非常に少ないと言わざるを得ません。おそらく、発足当初はJSPSのようにお金をただ配分するのが精一杯で、プログラム・オフィサーや配分機関職員による手厚い研究開発支援を期待するのは難しいと思われます。もし、あなたがAMEDへ移管される既存課題に参画しているのであれば、従来のような配分機関からの支援は期待できなくなる可能性を認識しておくべきでしょう。

 AMEDについては上記したように様々な懸念はあるものの、いざ発足してみれば杞憂で終わる可能性もあります(そうであって欲しいものです)。また、今年度末から来年度にかけて、さらに多くの情報が明らかにされるはずですから、しっかりとフォローしていくことが必要でしょう。管理人も情報を入手次第、twitterなどでご紹介できればと思います。


 2回のエントリーに渡って、今年の振り返りと来年の展望について書いてみましたが、いかがでしたでしょうか?
日本のサイエンスを取り巻く環境は相変わらず厳しいものがありますが、それでも研究者として責任ある行動(RCR)をとり、税金を使って研究することの意味を自覚し、ささやかでも業績を積み重ねていけば、なんとかやっていける仕組みはまだ維持されています。

 最後になりましたが、本業が相変わらず多忙のため、今年もブログの更新が滞ってしまったことをお詫び申し上げます。来年も改善は難しい状況ですが、引き続きお付き合い頂けると幸いです。
来年もセレンディピティが皆様に微笑むことを願って。

Lablogue管理人 MO
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 いよいよ2014年も終りが近づいてきましたが、今年は皆様にとってどんな1年だったでしょうか?
ご存知のように、研究の世界においても、世間同様に良いことも悪いことも含めて様々なことが起こった怒涛の一年でした。そのような中で、今後の研究環境に影響を与える政策やその動きが既に始まっています。そこで、今年一年を振り返りつつ、今後の研究環境がどのように変化しうるのか、その展望や対応について、2回のエントリーに分けて書いてみたいと思います。
第1回目のテーマは「グラント」です。




昨今のグラント事情


近年、国の財政が厳しい中で、科学技術予算の多くがトップダウン型のグラントに投下されています。ここ1,2年だけで、COI(センターオブイノベーション)やSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)、FIRSTの後継であるImPACTなどのプログラムが開始され、特定の分野や拠点形成に予算が集中しています。
また、比較的短期間で成果が見込める出口志向の研究開発に予算がつきやすい傾向が続いています。国の科技予算には限りがありますから、トップダウン型のグラントが重視されている現在、多くの研究者が望む、広く浅く配分するような競争的資金は"バラマキ"として評価されず、予算がつきにくい状況にあります※。

※JSPSの科研費は"聖域"として、毎年ある程度の予算が措置されていますが、額は横ばいであり、今後も大きく増えることは無いでしょう。また、「広く浅く」は科研費があるのだから、それ以外はいらないという考えもMEXTや政府の中で働いているようです。

このような状況の下では、重点対象となる分野以外の研究者や基礎寄りの研究者にはなかなか予算が回らず、苦しい研究生活を強いられている方も少なくないでしょう。また、大学への運営費交付金の減少も追い打ちをかけています。

これからのグラント獲得のために

それでは一体、研究予算を獲得するためには、どうすれば良いのでしょうか?
重要なのは、視野を広く持つこと、民間と協力すること、相談することの3つと考えます。
まず、科研費以外にも目を向けましょう。特に地方と私大に多いのですが、科研費以外のグラントに関する知識が極めて貧弱な研究者が少なくないことに驚かされます。科研費以外にもよく調べてみると、意外とグラントはあるものです。例えば、地方自治体や民間の財団にも額は大きくないものの、様々な制度があります(最近では、こうした情報を検索できる便利なサイトもあります。例 コラボリーgrant square)。

もし、産業への展開が期待できる技術シーズを持っているならば(特許があると一番良い)、企業との共同研究開発も積極的に検討すべきです。これにより、企業からの研究資金が期待出来るだけでなく、産学連携で初めて申請が可能になる国の競金(JSTの研究成果展開事業やNEDO等)も多くあり、可能性は大きく広がります。
また、最近流行のクラウドファンディングも検討する価値がありそうです(例 アカデミスト 分野は違いますが、国の支援を打ち切られた京大の天文台が見事資金調達を達成しました。https://academist-cf.com/projects/4/shibata.php

最後に「相談すること」ですが、内と外のそれぞれに相談しましょう。まず、「内」ですが、多くの大学にはURAや産学連携部門の「コーディネーター」といった方々がいるはずですので、まずは彼らに相談します。彼らの主要なミッションのひとつが外部資金の獲得サポートであり、様々な競争的資金の情報を持っています。また人によっては、配分機関とのコネクションを持っていて、その人を通じて配分機関へコンタクトができる場合もあります。URAに関しては、ポスドクの雇用対策としてのネガティブな見方もありますが、徐々に定着し、少しずつではありますが、レベルが上がってきているように感じます。また、産学連携を支援するコーディネーターは、企業出身者のベテランが多く、豊富な経験と強力な人脈をもつ人が少なくありません。例えば、某O大学などは比較的小さな大学ですが、優秀なコーディネーターを多数擁しており、その競金獲得実績は大学の規模から考えると、かなりのものです。

次に「外」ですが、研究資金の配分先に直接相談することです。公募の公平性を保つ観点から、申請の相談には一切応じてくれないイメージがありますが、JSTやNEDOなどは意外と相談に応じてくれます(事業や担当者にもよりますが)。制度の紹介から申請書の書き方、選考のポイントなど、知りたいことがあれば積極的にコンタクトすべきです(電話で質問したり、面会のアポを取るのがお勧めです。メールだとスルーされることが多いので)。多少の厚かましさ(良く言えば積極性)がグラント獲得には必要と心得ましょう。直接相談することで、公募説明会などでは聞けないような様々な情報を得られるはずです。


こうしてみると、実は意外と多くの選択肢があり、自分次第で可能性が大きく広がることがお分かり頂けたかと思います。採択率の低さを嘆く前に、やるべきことはたくさんあるはずです。
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